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昼ごはんは購買のパンを買った。前の席の島田という男子生徒が「飯持ってきてないなら、昼休みに速攻買いに行った方がいいよ」と4時間目が始まる前に教えてくれて、場所が分からないと言うと大久保さんが私も行くからと、昼休みになるなり連れていってくれた。
島田くんが言ったのはこういうことか。争奪戦のようにパンや弁当を買い漁る生徒たちに混じって、適当に3つ手に取る。制服が違うからか、みんな一度ギョッとした顔を見せるが、次の瞬間には手元の食料に関心が移っていくようだった。
「買えた?」
波を割って這い出ると、おにぎりとお茶を持った大久保さんが待っていてくれた。
「買ったけど、何買ったのかわからん」
「あはは!なにそれ!芹沢くん面白いね」
「えーっと…」
パンにはそれぞれシールが貼ってあった。ひとつはあんぱん、もうひとつはコッペパン、そして最後のはくるみパン。
「あ、くるみパン買えてる!これ超美味しいんだよ!」
「そうなんだ?よかったよ、とりあえず食えるもんばかりで」
「ふふふ。よし、教室戻ろ」
大久保さんの長い髪が揺れた。ポニーテールが良く似合う。
「芹沢くん、背高いよね?何センチ?」
「高いかな?175だけど」
その後の質問も結構どうでもいいものだったけど、それはきっと僕に興味があるからじゃなくて、僕の緊張をほぐすためだったのだろう。さっきのぐいぐいくるボブと違って距離のとり方が上手い。
「さっきのさ」
「うん?」
「ボブの子は誰なの?」
「ボブ…?ああ、美咲ね。中島美咲。ってか美咲、休み時間毎にあんなに質問攻めしといて名前も名乗らないとかやばぁい」
階段をのぼりながら、彼女は笑った。
教室に戻ると島田くんが窓際から呼んだ。大久保さんに礼を言ってそっちへ行くと、空いている席から椅子を用意してくれた。
「芹沢くん、パン買えた?」
「うん、買えた。ありがとうね、島田くん」
「よかったなぁ、争奪戦だから買えないこともあんだよ」
そう言った小太りの男は加納と名乗った。ふたりは中学からの同級生で、仲がいいらしい。
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