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真っ白い四角箱が目の前にある。
テッシュボックス?持ち上げようとするとその中に吸い込まれた。
目の前には白い壁、さほど高くなさそう、一歩足をだした。
白い壁に色が付き始める、それでも真っ白、枠?なんだろう、黒い線?
ビーン。
何の音だ?
一、二、三、六本の線。
ジャララーン。
音が出た。
驚いて一歩下がると右の視界に何かが入り込んできてそっちを見た。
紙、写真?
手を伸ばし触るとそこだけに色がついた。
手で撫でるように左右に振ると画面のように色が付き、それが写真だとわかる。のぞき込むとそこには俺が立っているような気がした。
「SOURUDOAUTO?」
マイクスタンドかな、大きな口を開け、歌ってる?
なんかかっこいい写真ににやけている自分がいる。
それをなぞろうとしてあげた手が動かない。
右手だけじゃない、左も。
かろうじて肘から下が動くけど、体にぐるぐる巻きにされたような、重くて、だるくて。
「ほらよ」
声のした方を見た。
下に座り込んでいる男が何かを差し出した。男だというのはわかるが長い前髪が顔を隠していて誰だかわからない。
おにぎり?
「ちゃんと食え、腹減ってんだろ?」
この声は聞いたことがある、ずっと、ずっと俺のそばにいたような・・・。
差し出された物を受け取ったような気がした、でも手の中で崩れ落ちていく。
その男は立ちあがると俺の体をすり抜けていった。
追いかけるように振り返ったが男の姿はなかった。
五分前です。
あ、まただ・・・。
五分?まだ五分?五分って何?
手でうけ取った物をみようとして手を見た。
掌は見えない、手の甲だけが肌色を見せている。
プシュ―!
何の音だ?
顔をあげると奥の方でこそこそ話す人の声、誘われるように近づいた。
「やばいよな、ゆっきーの奴」
はっとした、この声も聞き覚えがある。
何いきがってんだ?
ぶっ潰してやろうぜ!
プシュー!
これけつの穴に差し込めば死ぬんだぜ。
その声を聴いて体が震えだした。
「やっちまおうぜ」
それを聞いてここから逃げなくちゃと思って走り出した。
重い体、足はなまりがついているみたいに引きずるしかなくて、早く逃げたいのに逃げられない。
いつの間にか気が付くと周りが色づいている、足がゆっくりになる、まるでトンネルのような中にいっぱい貼られた写真、それが映像のようで・・・。
並んだ写真がパノラマ写真のように風景を映し出している。廃工場だろうか、しん、と静まり返っている、俺の足音しか聞こえない。
何かが目の横をすっと通ったような気がした。
横を向くと、写真の中に窓ガラスがうつっている。
手を当てるとヒヤッとした、ガラスの手触り、曇りガラス?
外を赤いランプのようなものが時折光遠ざかる。
車!
なんで?
写真の中の窓、感触がある、叩きたいのに叩けない。体がゆうことをきかない。
ちきしょう!
その窓を、いや、壁ごと壊し突き破った。
ガシャーン!
ばたりと倒れでた場所はまるで穴の出口のような、先には光が見えている。
起き上がり、その明かりめざし、飛び込んだ。
スローモーションでまわりの風景が後ろに流れていく。
廃工場、窓ガラス。
体が倒れていくように前のめりになっていくんだけど、体が硬直して顔は前を見たままで、映像だけが流れていく?地面?なんで?
二分前、早く!
それと同時に音楽が流れてきた。
この曲しってる。
流れる風景の中、横で俺がマイクを握り歌っているのが見えた。
大勢の人の中で歌っている。
俺は誰だ?
地下深く俺は倒れながら落ちていく感覚を覚えていた。
ハッハッ、ハッ、ハッ、俺は何で走っているんだろう?
さっき、窓から外に出たはずなのに…走ってる?
それもやぶの様な中、足元は裸足だからかただ痛みだけが伝わってくる、腕で草だろうか、何かをかき分けてはいるが、何せ…あ、あれ?いつの間に?
ぐるぐる巻きになった腕が動かせる、手はまだだが腕は動かしている。
なんだよココ!
何から逃げているのだろう?
追いかけてくるのは巨大なヘッドホン、大きな音は曲にさえなってなくて只の雑音にしか聞こえなくて耳をふさぐ。
今度は足元の感覚が変わった。何処まで行っても沼地のような、足を何かネチャ、ネチャしたものの上を走り、薄のような高い草が体を叩いていく。
やみくもに走っても駄目か、息切れ、こんなのコンサートの体力作りに比べれば…コンサート?
あれ?
急に足がゆっくりになった、振り返るとヘッドホンはさほど大きくないような気がして手を伸ばした。
すると手の中にはいつもの大きさ…いつもの…
ズキン!
「いってー!」
痛い頭に手をやった、体がくの字に曲がる。
すると今度はシャカシャカなるヘッドホンとは違い人の声、それも男の声が何かを叫んでいるように聞こえる。
呼吸を整え、その声が何を言っているのか耳を澄ませる。
「探せー!この辺に隠れてるぞ!」
「探し出せ!見つけて血祭だ!」
「まわせ、あんな奴、女にしてしまえばこっちのもんだ」
探せ!
探し出せ!
「いたぞー、音がする!」
俺は手にしたヘッドホンを投げ捨てまた走り出した。
俺は何から逃げているんだ!?
そう思ったら今度は目の前には何もないきれいな草原が広がった。
後ろから追いかけてくる人たち、でも一歩前にでたら絶対見つかる。
絶体絶命、どうしよう。
ヒュッ!
何かが飛んできて、身をかがめた。
頬に痛みが走り手をやると、手にまき付いた白い包帯が赤く色づいた。
切れてる?
ヒュッ!
ヒュッ!
何かが落ちてくる、空から?
それをとった。
「お見事!」
誰?
わからないが手の中にあるものは…?
マイク?
「差し上げよう」
空の上の方から聞こえる声。
「ここはどこだ!」
俺の声はこだまとなって響くだけだ。
まさか。
「あ、あ」
マイクのが拾い上げる声は俺の声じゃないような気がした。けど!
「ここはどこだ!――――!」
キーンとした機械音、ハウリングのような音。
すると足元からぐらぐらと動き出ししゃがみ込んだ。
地震?
「・・・・さん」
誰かが俺を呼んでいるような気がした。
「野島さん、野島さん?」
顔を上にあげると目にまぶしいほどの明かりが入ってきた。
「はー!」
息を大きく吸い上げた。
「野島さんわかりますか?」
メガネをかけた男がのぞいている、目の前を明かりが行ったり来たり。
これか?
「野島さん?」
「・・・俺は、野島…ですか?」
「ああ、そうか、えーと」
「反対です」
という女性の声。
「島野ゆきさんわかりますか?」
「ゆっきーさんわかります?」
ゆっきー、ああそっちの方がなんとなく。
「・・・はい」
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