10人が本棚に入れています
本棚に追加
何度目かの青信号で、ハグ以上になってたハグがゆるんだ。
「じゃ、帰るか」
「え」
口から反射的に出た。
「『え』ってなんだ」
「ぅ」
「今日のところは、『っす』にしとけ」
「っす……」
よし、とか言って手を引かれて横断歩道を渡らされる。
渡ったらあとちょっとしか居られないんだけど。
「……き、なんだけど」
「は」
「もっと居たい」
「う」
なんか知らないけど、うろたえ始めた。
歩くのも止まってしまったので、私が引っ張ることにする。
「って、それは、ちょっと」
「いいじゃん。ハートの日なんでしょ」
「……これは、違う……」
「じゃあ何よ」
話してるうちに家に着いた。外扉を入る。エントランスの前のパネルに、鍵で触る。ガラスの扉が開いたから、一歩入って振り返る。
いつもなら、お互いここで手を振るところだ、けど。
どうするの。扉、閉まっちゃうよ。
手もはがさまるよと思っていたら、振り解かれた。
そうか。これが答えか。
「……お前、覚えてろよ……」
「やだ」
覚えてない。速攻忘れる。
自分から誘って引かれて振られた事なんか覚えてたい訳ない。
エレベーターを読んで床を見てたら、靴の先が目に入った。扉の境を越えている。
閉まりかけた扉のセンサーが反応して、もう一度開く。
顔を上げて靴の主を見る。
……うわ。なんで。
めちゃくちゃ怒ってる。
「うっ」
「お前のせいで俺の努力は無駄になった」
デコピンすんな。努力ってなに。
デコピン下手で手を繋がれる。引っ張られるやつじゃなくて、恋人繋ぎだ。
顔がにやける。エレベーターに乗り込みながら、ぼそっとつぶやく声が聞こえた。
「8月10日は、野獣の日だぞ」
【たぶんへたれた野獣で終わる】
「どんな返事だー」
最初のコメントを投稿しよう!