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プロローグ
生まれた時から、ソレに抵抗なんてなかった。
兄とは違って僕は父の血が濃くて、ソレを必要としていた。
なのに、初めてソレが喉を通らなかった。
僕の目の前にあるソレは、黒くて、冷たくて、目に入れたくもない人だって沢山いる。
けど、今まで僕はなんともなかった。
なんともなかったはずだった。
なのに、解凍されはじめて、生臭い匂いが部屋に充満し始めるとあの瞬間がフラッシュバックする。
不安、恐怖、罪悪感の中に紛れるのは、抑えきることのできない興奮。
その事実に自分でも、驚くと同時に、悔しくて堪らない。
自分の未熟さを痛感した。
嗚咽の溢れる唇から、やっと紡がれるのは、『喰べたい』という言葉。
僕の理性は何処へ行ってしまったのか、もう帰ってくることはないのか。
誰かを傷つけるための口内の鋭い歯を、いっそのことへし折ってしまいたかった。
しかし、そんなことは父が許さない。
もう食欲と呼べるのか分からない感情に圧迫されつつも考える。
僕は、やはり、人間ではなかったのだと。
どこまでも僕は、本当の意味でバケモノだった。
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