47人が本棚に入れています
本棚に追加
出流は顔の下半分を引きつらせるようにゆがめると、鬼気迫る形相で亨也をにらんだ。
「くだらないこと言ってると、殺すよ、あんた」
だが亨也は、そんな彼女をどこか優しいまなざしで見つめている。
「あなたは、本当は彼に死んでほしくない……そうなんでしょう?」
「黙れ!」
瞬く間に出流の眼前に集積した赤い気が、亨也に向けて放たれる。だが、亨也は眉一つ動かさず、同等のエネルギーを持つ銀色の気で包み込み、それを消滅させた。
「私も、彼に死んでほしくない」
出流……正しくは、その姿を借りた優子は口をつぐみ、静かに言葉を継ぐ亨也を見据えた。
「明日、私は自分にできる精一杯のことをするつもりです。ですが、計算上でもギリギリですから、ひとつ間違えれば、彼はエネルギーの収拾がつかなくなって自死せざるを得ない状況に追い込まれてしまう」
「ひとつ間違えればじゃなくて、百パーセントそうなるでしょ」
出流は肩をすくめると、あきれたような表情をした。
「何たって、あいつの最大エネルギーはあたしと同等かそれ以上。あいつがその気になれば、大陸の一つや二つ、簡単に消し飛ぶんだから」
そして、片側だけ口の端を引き上げて笑う。
「だから化け物だっていうのよ。そんな力、人間が持つべきものじゃない。……そう思わない?」
「確かにそうですね。特に彼のような人間には、本当に不必要だ」
亨也はうなずいてみせてから、穏やかな笑みをその頬に浮かべた。
「ただ、彼は化け物じゃない。優しくて、人に気ばかり使って、料理上手で……寺崎さんも言ってましたけど、あんな化け物いませんよ。確かに」
そして、そのまなざしを、ゆっくりと出流に向ける。
「だから私は、彼に死んでほしくないんです。彼にはもっと生きてほしい。別に、彼が本当の総代だからとか、血がつながっているからとか、そんなことはあまり関係がない。あの男だから生きてほしい。ただそれだけなんです」
出流はそんな亨也を斜からじっと見上げていたが、肩をすくめて目線を外すと、いくぶん面倒くさそうに問いかけた。
「で、あたしに話って何なわけ?」
亨也は居住まいを正すと、正面から出流を見つめた。
「彼を、助けてほしい」
出流はあっけにとられたように動きを止めた。
最初のコメントを投稿しよう!