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「あなたの力なら、彼の力を抑えられる。協力していただきたい」
「……何を言い出すかと思ったら」
それから、我慢しきれなくなったように吹き出すと、けらけらと笑い始める。
「何であたしがあの男を助けなきゃならないわけ? あんた、頭がおかしくなったんじゃないの?」
ようやく笑いを収めると、出流の姿をした優子は、とがったまなざしを亨也に突き立てながら、口の端を左右非対称に引きつらせた。
「あたしはあの男が憎い。あの男のせいで、あたしはこんな体で生きなければならないんだから。その恨みを晴らす絶好のチャンスだっていうのに、何でそんなヤツを助けなきゃならないわけ?」
亨也は小さく息をつくと、遠い目をした。
「多分、そう言うだろうとは思ってました」
そう言うと、うつむいて力なく笑う。
「藁にもすがりたい心境なんですよ、私は。彼を助けるためなら、なりふりなんか構っていられない。自分の力に限界がある以上、誰かに助けを借りなければ、彼を助けることができないんです……悔しいですが」
「だからって、あたしに言うのは筋違いも甚だしいでしょ」
そう言って苦笑した出流を、亨也はじっと見つめた。
「……私はそうは思わない」
出流の姿をした優子は、眉根を寄せて亨也を見た。享也はそんな優子の視線を、静かな面持ちで受け止める。
「だって、あなたは彼の子どもだから。あなたの中にも、あの優しい男の血が流れている。私はその可能性に賭けたかった」
哀れむような、愛おしむような、複雑な優しさを秘めた享也のまなざし。優子はそのまなざしから、なぜだか目をそらすことができない。
「実際、あなたが他人を殺したのは一度だけだ」
鼓膜を突き刺したその一言に、優子は思わず呼吸を止めた。
「もちろん、間接的にあの大惨事を引き起こしたのは確かです。ただ、直接普通の人間に手をくだして殺したのは、結果的には出生直後のあの一度きり。あなたが手を出すのはいつも紺野さんか、玲璃さん、……異能を持つ自分の血族だけだ。普通の人間に手を出すのは、必ずそばに紺野さんがいて、人間を守ってくれる状況の時だけです」
「そんなこと、言い切れないでしょ」
優子はようやく享也から目線をそらすと、口の端を上げた。
「あたしはいつでも人間を殺せる。人間なんて、あたしにとってはクズだし。何なら、今、この河原にいるやつらを全員殺ったって構わない。……やってみせようか?」
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