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昼食の時間になったが、寺崎は相変わらず机に突っ伏して動かなかった。食欲など当然のことながらない。弁当を取り出す気にもならず、寺崎はこの日何度目かの大きなため息をついた。
と、机の脇に誰かが立った。
気配を感じて寺崎はちらりとそちらに目をやったが、それが誰だか分かると、またすぐに顔を伏せた。
出流はそんな寺崎を冷然と見下ろした。
「随分しょぼくれてんじゃない」
「あんたはどっち? いずるちゃん? それとも……」
「あたしはあたしよ」
その途端、ふっと意識をかすめる、赤い気。寺崎はまた小さく息をついた。
「何か用? 俺を殺すの?」
投げやりにそう言うと、鋭い目でちらっと彼女の方を見る。出流は口の端を上げて笑った。
「別に。何をそんなに落ち込んでるのかと思っただけ」
寺崎は顔を腕に埋めると、ため息とともに言い捨てる。
「……ほっといてくれよ」
出流はそんな寺崎をしばらくじっと見つめていたが、その頬に意地の悪い笑みを浮かべ、突然こんなことを問いかけた。
「あんた、行きたいんだ」
寺崎は眉をぴくっと動かして一瞬顔を上げかけたが、またすぐに突っ伏すと、吐き捨てるように答える。
「それがどうしたんだよ。おまえには関係ないだろ」
「神代総代とやらに、止められたの?」
寺崎はそれには答えず、横目で出流をにらみ付ける。出流は相変わらずその顔に、小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。寺崎は、のろのろと上体を起こすと、深いため息をついた。
「……見届けたいんだ」
吐き出す息とともにこう言うと、じっと前方を見据える。
「神代総代は死ぬ覚悟だ。紺野もヘタしたら死んじまう。それなのに俺だけ安穏とこんなところで何も知らずにいるなんて、……耐えらんねえんだよ!」
寺崎は目を堅くつむって下を向いた。机上で握りしめられた両手が、微かに震えている。
出流はそんな寺崎を冷ややかに見下ろしていたが、おもむろに口を開いた。
「連れていってやろうか」
寺崎は耳を疑った。思わず勢いよく顔を上げ、目の前にたたずむ出流をまじまじと見つめる。
出流は表情を変えないまま、淡々と続けた。
「あんたを、アリゾナまで転送してやろうか」
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