第四章 転落

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 寺崎はしばらくの間、何も言えなかった。相手が相手だけに即座に信じられないことは確かだ。普段の彼なら、何か裏があると考えたに違いない。だが、寺崎はこの時ばかりは小さい声でこう聞いた。 「……マジで?」  出流は無表情にうなずく。 「ただし条件がある。あたしを一緒に連れて行け」 「いずるちゃんを?」  すると出流は小さく(かぶり)を振った。 「アリゾナまで転移(テレポート)するのは、この子の体を使ったんじゃ無理だ。あたし本体が行く。でも、あたしは自分一人では動けない。おまえがあたしを抱えて連れて行くというんなら、おまえも一緒にアリゾナに行かせてやる」  それから、その頬になぜだか自嘲的な笑みを浮かべると、こんなことをつぶやいた。 「この子には恩がある。おかげで、高校生活ってやつも多少は体験できたしね。危ないところには行かせられない」  改めて寺崎に向き直ると、その凛としたまなざしで真っすぐに見つめる。 「どうする?」  寺崎はそんな彼女を疑わしそうな目でじっと見つめ返した。 「ほっといても、紺野は死ぬかもしれない状況にある。そんなところに行っておまえは何をする気だ? 紺野にとどめでも刺す気なのか?」  出流は首を横に振ると目線を落とし、つぶやくようにこう言った。 「顔を、見せる」  寺崎は大きくその目を見開き、出流の姿をした優子を瞬ぎもせず見つめた。 「あいつはあの時、死ぬ前にあたしの顔が見たいと言った。もしこのままあいつが死ぬんだとしたら、顔くらいは見せてやろうと思った。……それだけだ」  寺崎は黙ってそんな出流を見つめていたが、やがて大きくうなずいた。 「分かった」  出流に正面から向き直って居住まいを正すと、深々と頭を下げる。 「よろしく、頼む」  出流は無表情にうなずいたが、ややあって、ぽつりとこう付け加えた。 「このことは、神代総代とやらには、言うな」  寺崎は出流の表情をじっとうかがい見た。 「あたしやあんたが来てるなんて知ったら、きっとシールドどころじゃなくなるだろうからね」  そう言って苦笑まじりの笑みを浮かべる出流の表情からは、その奥に隠された真意を読み取ることは難しかった。寺崎は期待と不安が複雑に入りまじった表情を浮かべながら、乾ききった喉の奥に、無理やり唾液を送り込んだ。 ☆☆☆
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