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亨也は言葉を切ると、みどりを見つめた。
全てを話した。包み隠さず、全てを。今回のアリゾナ行きが非常にギリギリの状況であるということも、紺野が神代総代を継ぐべき人間だった可能性が高いということも。
みどりは亨也の話を、終始黙って聞いていた。じっと手元を見つめながら、視線すら動かさず、静かに。そして話が終わった今も何も言わず、コーヒーから立ち上る湯気を見つめながら、瞬きすらためらうかのように動きを止めている。
亨也はそんなみどりを黙って見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「今から、紺野さんに少しだけでも会っていかれませんか」
みどりはゆっくりとその顔を上げ、亨也を見つめた。
「私も最善は尽くします。彼を死なせる気は毛頭ない。ただ、万が一ということが絶対にないとはいえない。彼を元気づける意味でも、会っていかれるといいと思います。ただ、発作の間のわずかな時間になってしまいますが。彼もかなり消耗が激しい。疲労も極限に達していると思うので」
みどりは何も言わず亨也の言葉を聞いていたが、やがて深々とうなずいた。
うつむいたみどりの額にかかる白髪交じりの髪が、体の震えを伝えてふるふると揺れている。喉が痙攣するように震えたかと思うと、やがてぽつりと小さな滴が零れ落ちた。
「……神代先生」
「はい」
「先生も……」
みどりは涙にぬれた顔を上げると、真剣な表情で享也を見つめた。
「先生も絶対に、死なないでくださいね。みんなが無事で帰ってきて、また以前のように……」
そこまで言うと、みどりは肩を震わせて嗚咽した。亨也も何とも言えない表情でみどりを見つめていたが、やがてその頬に悲しげなほほ笑みを浮かべた。
「紺野さんは、絶対に帰します。そうしたら、また以前のようにここで暮らさせてあげてください。彼自身も、きっとそれを望んでいる」
「先生もです!」
突然、みどりがこらえきれなくなったように叫んだ。
「あなたに何かあったら、紺野さんがどれだけ悲しむか。今回のことで、誰一人死んではいけないんです。誰一人、欠けてはいけないんです!」
みどりは叫ぶようにそう言うと、顔を両手で覆い、震えながら泣き崩れた。
亨也は何とも言えない表情を浮かべながら、そんなみどりを言葉もなく見つめていた。
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