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紺野は、静かに眠っていた。
「二時頃、強い発作がありました。ずいぶん長く眠っているので、たぶん、そろそろ気がつくと思いますが……こちらにお座りになりますか?」
沙羅は手近にあったソファをベッドサイドに移動すると、みどりに勧めた。
みどりは義足をつけ、つえをついて立っていた。亨也のマンションはバリアフリーではないので、車椅子では身動きがとれない。中には義足で入るしかなかったのだ。
「ありがとうございます。助かります」
みどりは沙羅に頭を下げると、よろよろと枕元のソファに腰を下ろし、眠っている紺野の顔を見つめた。
亨也は離れた場所から、みどりの様子を黙って見守っている。席を外すようにして寝室を出た沙羅は、亨也の隣に来ると、そんな亨也を少し悲しげな目で見つめた。
と、その視線にこたえるかのように、亨也も沙羅に目を合わせ、口を開いた。
「少し、話があるんだ」
「私にですか?」
亨也はうなずくと、ダイニングの椅子に座るよう沙羅を促し、その向かいに自分も腰を下ろした。
「当初私は、アリゾナには一人で行くつもりだった。だが、彼の力を大幅に読み違えていたことで、その計画を変更せざるを得なくなってしまった」
そう言って亨也は、沙羅の目をじっと見つめた。
「……君の力を借りたい」
沙羅はその大きな目をより一層大きく見開いて亨也を見つめた。
「君が危険にさらされることは本当は避けたかったんだが、君の力がどうしても必要なんだ。申し訳ないが、一緒に来てくれないか」
沙羅はしばらくは無言で亨也を見つめていたが、やがてゆっくりとうなずいた。
やがてうつむいた目のあたりから、ぽつりと一滴、涙が落ちる。亨也は居たたまれないような表情を浮かべて、涙を落とす沙羅を見つめた。
と、沙羅はゆっくりと涙にぬれた顔を上げた。
自分を見つめる沙羅の表情を見て、亨也は驚いたようにその目を見張った。
沙羅は涙にぬれた頬を引き上げ、笑っていたのだ。なんとも、嬉しそうに。
「そう言っていただけるのを、実は待っていたんです」
沙羅は涙を拭いながら、つぶやくように言葉を継ぐ。
「嬉しいです、総代。総代のお手伝いができそうで……」
その言葉に、亨也は困ったような笑みを浮かべた。
「嬉しいって……第一、私はもう、総代じゃないよ」
「いいえ」
沙羅はきっぱりと頭を振る。
「私にとって総代は、あなた一人なんです。それは一生、変わらない」
亨也は黙って沙羅を見つめていたが、やがて深々と頭を下げた。
「ありがとう、沙羅くん」
「とんでもない。やめてください、総代。当然のことですから」
沙羅は頬を赤く染めて恥ずかしそうに手を振ると、居住まいを正す。
「で、何をすればよろしいんですか」
亨也は真剣な表情になると、口を開いた。
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