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その後、亨也は沙羅と紺野の傷を完全に回復させた。病院側にどうのこうのという問題ではない。不安材料はできるだけ取り除かなければ、成功の可能性はさらに低くなるからだ。
紺野を治療し、沙羅の治療に移る。その最中、紺野の発作が起きた。発作はさらに強まっているようで、継続時間も六分近い。あまりの激痛に、紺野は発作中に吐いた。吐しゃ物はすぐに転送したものの、そのまま気を失った紺野を、亨也は居たたまれない表情で見つめていた。
「……何としても、明日は成功させないとな」
沙羅の治療を再開しながらひとり言のようにつぶやく亨也を、沙羅は不安そうな目でちらっと見やった。
「総代……」
「え?」
沙羅はしばらく言いよどんでいたが、やがて思い切ったように口を開いた。
「私、自信がありません」
硬い表情でうつむく沙羅を、亨也は黙って見つめた。
「総代が危険な状態の時、あの男の意識をシールドし続けられるかどうか……自信が、ないんです」
沙羅は消え入りそうな声で言葉を継ぐ。
「今回の目的は重々承知しています。寺崎さん達のためにも、あの男を助けたい。でもその時、総代が危険な目にあっていたら……私、総代の方を選んでしまうかもしれない」
亨也は、それきり口をつぐんでいる沙羅の、その絹糸のような美しい髪を言葉もなく見つめていたが、やがて目線を落すと、静かに口を開いた。
「どのみち、私は死ぬ運命だ」
背筋を駆け上がる戦慄に、沙羅は息をのんだ。
「紺野が神代総代を継ぐべき存在であるなら、私は即刻その命を絶たれなければならない。今回、もし運良く生き残ったとしても、すぐに一族に粛正されるだろう」
亨也は穏やかなまなざしでどこか遠くを見つめながら、淡々と言葉を継いだ。
「だったら、このまま死んだ方が簡単だ。私が死ぬ気で最大エネルギーを出し切れば、被害はあの遊休地の中だけで済む計算だ。だが、私がもし生き残ることを考えたら、被害は広大な範囲に及ぶだろう。私以外の罪もない普通の人たちが、おおぜい死ななければならない。……そんなの、おかしいだろ?」
亨也はそう言うと、まるで同意を求めるかのようにちょっと笑って沙羅を見る。
沙羅はしばらくは何も言えずにそんな亨也を見つめていたが、やがて震える声を絞り出した。
「総代、私……総代と一緒にいます」
亨也は驚いたようにその目を見開いたが、すぐにきっぱりと頭を振る。
「そんなことはしないでくれ。君の能力なら、遊休地の外からでも十分に紺野の意識を操れる。何もわざわざ、危険を冒すことは……」
「いいえ!」
沙羅は亨也の言葉をさえぎってそう叫ぶと、震える声でこう言った。
「私……総代のこと、ずっと、好きでした」
亨也は目を見開くと、涙で潤んだ沙羅の瞳をまじろぎもせず見つめた。
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