47人が本棚に入れています
本棚に追加
出流はじっと自分のベッドに腰掛けたまま、何も言えずにただぼうぜんとしていた。たった今、優子が送信してきたその事実に、思考が完全に停止してしまっていた。
【仕方ナインダ】
ややあって、優子の遠慮がちな送信が届いた。
【コレ以上、出流チャンノ体ニイサセテモラウト、出流チャンニトッテモ負担ダケド、アタシ自身モモウ限界ナンダ】
「じゃあ、あたしはどうしたらいいの?」
出流はやっとのことで言葉を絞り出すと、震える手を握りしめる。
「優ちゃんがいなくなったら、またあたしはさえないいじめられっ子に逆戻りになっちゃう。勉強もできない、運動もできない、気が弱くて意見も言えない、寺崎くんに見向きもされない女の子に……」
こみ上げる嗚咽に言葉を奪われた出流は、その目から涙をあふれさせながらしゃくり上げる。優子はそんな出流の様子を見るように沈黙していたが、やがてぽつりと、こんなことを送信してきた。
【出流チャン、リレー選ニ立候補デキタジャン】
出流はハッとしたようにその目を見開いた。
【百メートルノ記録モ、三秒近ク縮メタッテ話シテクレタヨネ。ソノ時、アタシハイナカッタンダヨ】
優子の送信を感受しながら、出流はじっと足元を見つめている。
【勉強ダッテ、諦メズニヤッテミナヨ。アタシガ勉強ヲヤレタノハ、面白カッタカラ。ヤレルダケデ、嬉シカッタカラ。ダッテ今マデ、アタシハ動ケナカッタンダモン。教室デ、同ジ年ノ友達ニ混ジッテ一緒ニ授業ヲ受ケルコトガ、嬉シクテ嬉シクテ仕方ナカッタンダ。タダ、ソレダケ】
出流は、優子が優しくほほ笑んでいる気がした。
【ダカラ出流チャンモ、面白イカモッテ思イ直シテヤッテミテ。絶対、前ヨリハデキルヨウニナルカラ。デキルヨウニナレバ、モット面白クナルカラ。大変ナノハ、最初ダケダヨ】
「優ちゃん……」
【ソウスレバ、少シズツ自分ニ自信ガ持テル。自信ガ持テルト、人カライジメラレタリ、無視サレタリスルコトモ少ナクナルヨ。人カラサレタコトガ、気ニナラナクナッテクルカラ。反応ガナケレバ、ミンナツマンナクナッテ、ソウイウ事モヤメルハズ】
いつのまにか出流は泣くのをやめて、じっと優子の送信に集中していた。
【……出流チャンハ、幸セナンダヨ】
「幸せ?」
【ソウ。両親ガソロッテイテ、金銭的ニモ不自由ガナクテ、外見的ニモカナリイケテテ、何ヨリ、自由ニ動ク手足ヲ持ッテイテ】
優子はふっとため息をついたようだった。
【アタシニハ、何モ無カッタ。親モ、金モ、見テクレダッテコンナンジャドウシヨウモナイシ、動ケナイシ……。ズット恨ンデタ。周リノ者、ミンナ。何モカモ、敵ノヨウナ気ガシテタ】
かけるべき言葉も見つからず、つらそうにうつむく出流に、優子は明るくこんな言葉を送信してきた。
【デモネ。出流チャンニ会エテ、良カッタヨ】
その言葉に驚いたように目を見張り、出流はうつむいていた顔を上げた。
【ホントノコト言ウト、最初、アタシハ出流チャンヲ利用スルツモリダッタ。ウマイコト言ッテ、体乗ッ取ッテ、ヤリタイ事ヤロウッテ、ソンナ事考エテタ。デモ、出流チャンハ、ソンナアタシノコト、何ヒトツ疑ワナカッタ】
優子は一度送信を切ると、思いのたけを絞り出すように言葉を継ぐ。
最初のコメントを投稿しよう!