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【ソレドコロカ、アタシニオ礼ナンカ言ッテ、友達ダッテ言ッテクレテ、ステキナプレゼントヲシテクレタリ、一緒ニ散歩シテクレタリ……信ジラレナカッタ】
出流ははっとした。優子が、泣いているような気がしたのだ。
【初メテダッタ。同イ年ノ子ニ、ソンナ事ヲシテモラッタノッテ。嬉シカッタンダ。自分ニモ、友達ッテ呼ベル存在ガデキタノガ】
「あたしも、嬉しかった」
出流の目から、せきを切ったように涙があふれた。
「あたしはいつも、ひとりぼっちだった。みんなあたしのこと、お金持ちの過保護娘って目でしか見てくれなくて……。悩みがあっても、相談できる友だちなんかほとんどいなかった。いじめられても、じっと耐えるしかなかった」
そう言うと出流は、涙にぬれた頬を引き上げていたずらっぽく笑ってみせる。
「あの時は、ほんとにすっきりしたよ。あたしには、絶対できないことだったから。今までよくもやってくれたなって、敵討ちしてもらった気がした」
出流は涙でうるんだ目を伏せると、頭を下げるようなしぐさをした。
「優ちゃんといられて、ほんとに楽しかった。トイレの時だけは、ちょっとまごついたりもしたけど、……ほんとうに、楽しかった。ありがとう、優ちゃん」
優子は何も言わなかった。ただ、泣いている気配だけがひしひしと感じられた。
「あたし、やってみるよ」
ややあって出流は顔を上げ、にっこりと笑った。
「優ちゃんなしで、自分に何がどれだけできるか、やってみる。できないこともあるかもしれないけど、できることも、あるかもしれない。だから、……頑張ってみるよ」
優子が深々とうなずいたような気配がした。
「あたし、時々優ちゃんに会いに行く。だって、優ちゃんと会えなくなっちゃうわけじゃないんだもんね。そうしたら、怒られない範囲でお散歩しよう。その時、あたしもいろいろ報告するから。勉強も、こんなことやってるよって教えるから。そうしたら優ちゃんも、あたしにいろいろアドバイスして」
【……分カッタ】
ややあって、優子はつぶやくように送信してきた。
【楽シミニ、待ッテルヨ】
出流もほほ笑んでうなずき返す。
【ジャア、アタシ、消エルネ】
「うん」
【少シ、体ニ負担ニナルケド、許シテネ。頭痛ガシテ、チョット意識ガトブカラ。デモ、ソノ後ハ、何モ影響ガ残ラナイヨウニスル】
「分かった」
出流は自分のベッドに静かに横になり、目を閉じた。
「いいよ、優ちゃん……いろいろ、ありがとう」
【ジャア、イクヨ。アタシコソ、……アリガトウ】
次の瞬間、出流の五感は赤い輝きで覆い尽くされた。こめかみを射貫かれるような頭痛と、星のきらめきに似た輝きに、目がくらむ。
そのとき、ほんの一瞬、出流の視界を優子が横切ったような気がした。
――さようなら、出流ちゃん。
微かな優子の声とともに、出流の視界は暗転した。
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