最終章

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 まぶしいほどの日差しをキラキラ反射しながら、芦ノ湖はさざ波をたてて揺れている。  四人は湖畔で記念写真を取ったり、美術館を巡ったりして楽しんだあと、低床バスに乗り込んで宿泊先のホテルへ向かった。  そこは少々古びたホテルだったが、露天の家族風呂が設置されていて、予約すれば誰でも利用できる。みどりの入浴は、いかに玲璃がいるとはいえ大浴場ではきついので、わざわざ家族風呂のあるこのホテルを選んだのだ。寺崎はチェックイン時に、さっそくそれを予約した。  寺崎が手続きを済ませるまでの間、三人はロビーの端の方に立って待っていた。  玲璃はロビー脇の大きな池を見るともなく眺めながら、黙っていた。あれ以来、何となく紺野に話しかけにくいような状態が続いていたのだ。紺野もことさら玲璃に話しかけようとはせず、やはり無言で車椅子のハンドルを握っている。  気まずい沈黙が続く中、ふと玲璃は隣に立つ紺野を見て、何に気づいたのか驚いたように目を丸くした。 「紺野、おまえ、背が伸びたな」 「え?」  チェックインをしている寺崎をぼんやり眺めていた紺野は、玲璃の言葉にまたも驚いたように振り返った。玲璃はそんな紺野に構わず、その袖をとらえて歩き出す。 「ちょっとこっちにこい。みどりさん、見てもらえませんか? どのくらい違いがあるか」 「いいわよ。じゃあ、そこに立ってみて」  玲璃は無理やり紺野を車椅子の前に立たせると、その背中に自分の背中をぴったり密着させる。温かなその感触にドキッとした紺野は、思わず身を引きそうになった。 「そうねえ、五センチくらい紺野さんの方が高いかしら」 「五センチ!?」  玲璃は声を裏返すと、紺野の顔をまじまじと見つめた。 「四月から比べるとずいぶん伸びたんだな……だってあの時は確か、私と同じくらいの背だったもん」  紺野は恥ずかしそうに笑った。 「きっと、栄養がよかったんですね。寺崎さんのところでお世話になっている時は、本当にいい食事をさせていただきましたから」 「あとは、伸びる時期でもあったのよ」  そう言うとみどりは、嬉しそうな笑顔を浮かべた。 「靴もワンサイズ大きくなったでしょ。まだまだ伸びるわよ、きっと」 「お待たせー、……あれ? どしたの?」  手続きを終えて戻ってきた寺崎に、玲璃はもう一度紺野を引っ張って立たせると、先ほどのように背中を合わせて背比べをして見せる。 「ほら、伸びただろ」  寺崎も目をまん丸くした。 「え、マジ? 紺野、ちょっと俺と並んでみ?」  言われたとおり隣に並んだ紺野を見て、寺崎は感心したようにうなずいた。 「へえ、すげえな。確か四月は、おまえ、俺の肩くらいしかなかったよな。今、口くらいまできてるもん。伸びたんだな」 「いつもおまえといるから気がつかなかったんだな。おまえといると、みんな小さく見えるから」 「すみませんね、バカでかくて……。じゃ、手続き終わったから行こっか」  四人は荷物を抱えると、連れだってホテルの廊下を進み始めた。 ☆☆☆
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