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十時頃まで、四人は何やかんや楽しく話をして過ごしていたのだが、さすがにみどりも疲れた様子が見え始めたので、寺崎は奥のダブルベッドにみどりを移動させた。
「こっちのベッドに、おふくろと先輩が寝て。俺たちはあっちの和室に布団を敷くから。間に扉があるから、大丈夫っすよね」
「全然構わない。みどりさんが一緒なら安心だもん」
玲璃はそう言って笑うと、みどりにあいさつをして電気を消し、静かに仕切りの扉を閉めた。
「でもまあ、おふくろが寝るならあんま大きな声も出せねえしな……表に出ようか」
「ちょっと外でも散歩するか? ここ、お庭が奇麗だし」
「そだな、行こっか」
すると、そんな二人を黙って見つめていた紺野が、おもむろに口を開いた。
「すみません。僕も寝ていいですか?」
それを聞いた寺崎は、思わずぷっと吹き出した。
「何? おまえ、相変わらず早く寝てんの?」
「さすがに八時ではないですけど。十時には寝てますね。大体」
「マジで? ホントおまえって面白いやつだな。いいよ、じゃ、二人で行こっか」
「そうだな。じゃ、おやすみ、紺野」
玲璃は振り返り、笑顔で手を振る。紺野は一瞬、何とも言えない表情を浮かべたが、やがて小さく頭を下げると「お休みなさい」と答えた。
寺崎と玲璃が連れだって部屋の外に出、扉の閉まる音が低く響く。
紺野は何を考えているのか、しばらくの間、部屋の真ん中に立ち尽くしていたが、ややあって、気を取り直したように自分と寺崎の布団を敷き始めた。
☆☆☆
中庭では、ついさっきまで夜店が出されてにぎやかな雰囲気だったが、子どもたちの姿もまばらになり、店も片付けを始めているようだった。
玲璃と寺崎はそんな夜店を横目で見やりながら、静かな裏庭の方へゆっくりと歩いていく。
裏庭は人気もなく、微かな虫の声だけが通奏低音さながらに響いていた。
「それにしても、マジで箱根に来られたんだな、俺たち。よかったよな……全部、丸く収まって」
寺崎がしみじみとつぶやくと、隣を歩いていた玲璃もうなずいた。
「本当に。こんなに丸く収まるなんて、あの時は思ってもみなかった」
「玲は大学受験できることにもなったし」
寺崎の言葉に、玲璃は笑顔を見せた。
「そうだな。これからは自分の思う通りに人生を決められると思うと、本当に嬉しいし、信じられない。少し、怖いくらいだ」
寺崎は深々とうなずいた。
「……俺も、マジで嬉しいし、信じられない」
そう言うと、寺崎は隣を歩く玲璃を横目でちらりと見やる。
まばたきとともに上下する長いまつ毛と、白い耳を覆う柔らかそうな産毛。うつむき加減の白い首筋に、まとめ上げた髪の後れ毛がはらりとかかる。庭を照らすライトに浮かび上がる玲璃の浴衣姿は、なんとも艶やかで色っぽい。
と、玲璃も寺崎の視線に気づいて、足を止めた。首を巡らせて寺崎を振り仰ぐと、大きな瞳でまっすぐに見つめる。
玲璃は、やがて恥ずかしそうに笑うと、つややかな唇の隙間からこんな言葉をもらした。
「ほんとうに、嬉しい」
長いまつ毛を伏せて、ささやく。
「おまえと、一緒にいられるのが」
寺崎は、あんな力が隠されているとは到底思えないその細い体を、両腕でしっかりと抱き締めた。
寺崎の胸に顔を埋めながら、玲璃は幸せなため息をもらした。
感情に突き動かされるまま、寺崎は玲璃を抱きしめる手に力を込める。
言葉は必要なかった。鼓動を感じ合い、体温を伝え合い、呼吸さえ重ね合わせながら、やがてどちらともなく視線を交わし、どちらともなく目を閉じて、そっと互いの唇を触れ合わせる。
葉擦れの音と、かすかな虫の声と、温かく湿った夏の夜の空気が、そんな二人を優しく包んでいた。
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