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「私のせいなんだろ」
寺崎は眉根を寄せて玲璃を見た。
玲璃は風に吹き散らされる紺野の茶色い髪を、悲しげな目でじっと見つめている。
「私がいるから……そうなんだろ」
紺野の答えはなかった。寺崎は訳が分からないとでも言いたげに肩をすくめ、首をかしげる。
「なんで玲がいるから紺野が行くんだ? さっぱり分かんねえ」
玲璃は首を巡らせて寺崎を見た。その悲し気な目線に、訳が分からないなりに何かを感じた寺崎は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
と、目線を足元に落としていた紺野が、ポツリと口を開いた。
「自信が、ないんです」
「自信?」
いぶかしげに聞き返した寺崎に、紺野は小さくうなずいてみせる。
「自分に流れている血に逆らいきる自信が、……ない」
「血?」
紺野は顔を上げると、まだよく飲み込めていない様子の寺崎を、悲しそうな目で見つめた。
「僕は本来、神代総代になるべき人間だったと……そういう結果が出てしまいましたよね」
「でも、ならねえんだろ、おまえ。それでいいことになったんじゃねえか」
寺崎の言葉に、紺野は小さく頭を振った。
「組織や制度上の問題だけならそれで十分なんですが、問題は僕の体に流れている、この血なんです」
紺野は、そこで初めて玲璃にちらっと目線を向けた。目と目が合った途端、背筋一気に駆け上がるあの感覚に、玲璃は思わず息をのむ。
「僕は裕子以外の人間と、そういう関係になる気は一切ありません。ですが、僕の体に流れているこの血によって引き寄せられてしまった時、僕はそれに抗いきれるのかどうか……正直、自信がないんです」
寺崎はようやく紺野が何を言わんとしているのか悟ったらしい。血の気の引いた顔を、ゆるゆると玲璃に向けた。玲璃は紺野の気持ちを察しているのか、硬い表情でうつむいている。
「魁然総帥は、奥さまとお子さんを愛しておられた。でも、そんな魁然総帥でさえ、血によって激しく裕子に引き寄せられてしまった。あの方でさえそうなんですから、この血の力がいかに強いか、よく分かります」
紺野は振り絞るようにそう言うと、目線を落とした。
「もし万が一、そんなことになってしまったら、魁然さんに対しても、裕子に対しても、……そして、寺崎さんに対しても、申し訳が立たない」
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