最終章

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 白い特急列車を降りて新宿駅に降り立った四人は、そのまま連れだって改札を抜けた。 「すみません、わざわざ改札を出ていただいて……」  みどりの車椅子を押しながら紺野が申し訳なさそうにこう言うと、前を歩いていた寺崎が振り返って笑った。 「見送りくらいさせてくれよ。ほんとなら、千葉まで送りてえくらいなんだから」 「やっぱりそうしましょうか。私なら平気よ。少しくらい遠くても……」  みどりの言葉に、紺野は目を丸くして慌てたように首を振る。 「とんでもありません。ここで十分です」  いつもながらの反応に寺崎は苦笑したが、その表情は心なしか寂しげだった。  新宿駅JR線改札は、帰途につく人の波でごった返している。その人波の邪魔にならない端の方で、四人は立ち止まった。 「じゃあ、ここで見送るから」  寺崎が言うと、みどりがにっこり笑って紺野に右手を差し出した。 「握手して、紺野さん」 「みどりさん……」  おずおずとみどりの手を取った紺野に、みどりは優しく笑いかけた。 「約束してね、紺野さん。絶対、幸せになるって」  口元は優しくほほ笑んでいるが、そのまなざしは真剣で、心なしか潤んでいる。紺野は言葉を返そうとしたが、唇が震えて言葉にならなかったのだろう、口を引き結ぶと、無言でうつむいた。うなだれた顔をおおう前髪の隙間からこぼれ落ちた小さな滴が、コンクリートの床に黒い水玉模様を描く。  みどりは大げさに首を振り、やけに明るい笑顔を見せた。 「あら、だめよ紺野さん、泣いたりしちゃ……。せっかくの門出なのよ。明るくいきましょ」  隣で聞いていた寺崎が、苦笑まじりに肩をすくめる。 「ホント、おふくろの反応にはマジで驚いた。紺野のことを言っても全然驚かねえし、何かやけに明るいし」 「だって、紺野さんがそう決めたってことは、よほどのことなのよ。それを周りにいる私たちがとやかく言っても仕方がないでしょう。私たちにできるのは、明るく送り出してあげることくらいだから」  そう言うとみどりは、うつむいている紺野に温かいまなざしを向けた。 「それに、あなたには帰るところがあるから」  紺野ははっとしたようにうつむいていた顔を上げた。 「順平さんの所はもちろんだけど、うちだってそうなのよ。何か困ったことがあったら、いつでも帰ってきて。待ってるから。いろいろ事情があるから、そうそう頻繁に顔を見せに来る訳にもいかないとは思うけど、何かあった時くらいは……」  笑顔で話しはじめたみどりだったが、最後の方は声が震えて言葉にならなかった。言葉を切り、目を伏せて、喉元のこわばりを必死で飲み下しているみどりの様子に、紺野も引き結んだ唇を震わせた。 「あーあ、湿っぽいねえ。ダメダメ」  寺崎は首を振り振り大声でそう言うと、つかつかとうなだれている紺野のそばに進み出た。両肩にポンと手をのせて、みどりの方を向いているその体を強制的に自分の方に向ける。  戸惑ったように顔を上げた紺野に、寺崎はにっと笑いかけた。 「俺からおまえに言いたいことは、一つだけだ」  底抜けに明るいその見慣れた笑顔が目に入った途端、胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、紺野はあふれてくるものを必死でこらえながら、その視線を受け止めた。
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