最終章

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「おまえもだからな、紺野。おまえも幸せになれ。絶対だぞ」 「そうよ、紺野さん」  その言葉に、みどりも深々とうなずいた。 「あなたには、絶対に幸せになってほしい。東京の母からの、これが唯一のお願いよ」  紺野はなんとも言えない表情を浮かべると、目線を落としてうなずいた。 「……はい」  みどりはほっとしたようなほほ笑みを浮かべながら、にじんでくる涙を指先で拭った。  寺崎は黙ってその様子を見ていたが、おもむろに手にしていたスポーツバッグを紺野の目の前に差しだした。 「……行けよ」  紺野は寺崎からバッグを受け取ると、目線を上げた。  視界に映りこむ、三人の姿。  車椅子に座るみどりは、両手を膝の上でまるで祈るように組み、ほほ笑んでいるような、それでいて今にも泣き出しそうな表情を浮かべて自分を見つめている。みどりの右側に立つ玲璃の頬は、すでにすっかり泣きぬれて、時折隣に立つ寺崎の胸に顔をこすりつけている。寺崎は、そんな玲璃を優しく抱き寄せながら、普段通りの、どこかいたずらっぽいあのほほ笑みを浮かべて紺野を見ている。  その途端、四月に彼らと出会ってからの出来事が、走馬燈のように紺野の脳裏を駆け抜けた。感情の奔流が胸の奥から突き上げてきて、押し流されそうになった紺野は慌てて足を踏ん張ると、せり上がってくる喉の強ばりを飲みくだしながら、頭を下げた。 「本当に、……ありがとうございました」  寺崎は苦笑まじりに肩をすくめて(かぶり)を振る。 「礼を言うのはこっちだろ」  そういうと、こみ上げてくる思いを振り切るように、にっと笑ってみせる。 「ありがとな、紺野。おまえに会えて、マジで楽しかった」  その笑顔に息をのみ、あわててうつむいた紺野の目の際から、ついに涙が一滴、こぼれ落ちる。それを見た寺崎の口元も震えたが、慌ててあさっての方を向くと、目元を擦りながら苦笑した。 「なんだよ、もう! いつもながら涙腺緩いんだから。うつっちまうじゃねえか!」  半分怒ったようにそう言ってから、強引に紺野の体の向きを改札口の方向に変え、その背中をぐいぐい押す。 「ほら、行け! これじゃきりがねえ」  寺崎は紺野を改札の手前まで押しやると、みどりたちの方に戻った。紺野は名残惜しそうに振り返って三人の方を見たが、後から来る人波に押される形で改札を通った。
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