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ようやく家に着いた頃、スマホが震えた。
『意味ってなに』
彼からはその一言だけ。
思っていた反応とは少し違っていた。
「忙しすぎて会えないし、どこにも出かけられない」
二秒で打って返す。「そうだね」と返ってくると思っていた私はまた裏切られる。
『じゃあ今から行く。タクシーで』
私は驚いた。急いで返事を打つ。
「今から? 明日仕事は?」
『金曜日だから大丈夫』
知らなかった。
今日が金曜日だってことも。
孝介が、私とは違う気持ちだったってことも。
少しして彼は本当にやって来た。「おつかれ」とテープが貼られたコンビニのケーキを右手を差し出しながら。
それから私たちは何も言わずに二人並んでケーキを食べて、シャワーを浴びて、歯を磨いて眠った。
二人では少し狭いマットレスの上で横向きになって、私は孝介の肩に頭を寄せる。
昔から変わらない彼の体温と香りに心が解けていく。
「おやすみ」
大きな手でやわらかく髪を撫でられて、私は唇を噛んだ。
……ああ。
私は本当に馬鹿だ。
何も言わずに隣に居てくれる彼の袖を、止めどなく溢れる涙が濡らす。
――私は、こんなに優しい人を傷つけてしまったのか。
穏やかな夜は謝ることすら許してくれなくて、私は静かに泣くことしかできなかった。
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