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“好き”にも温度があって、二人が同じ温度になることは無いのだろうと私は思う。
「香子のことが好きです。付き合ってください」
高校の中庭で告白をされた時、間違いなく孝介の温度のほうが高かった。
私はどうだったろう。嫌いではなかったはずだ。
男女問わず下の名前で呼ぶ彼はクラスの人気者で、いつも明るく笑っていた。そんな彼を嫌う者はいない。
では好きか、と訊かれれば、よくわからないというのが本音だった。
「返事、聞いてもいい?」
「あ、今すぐ?」
「時間が欲しいならそれでもいいよ」
緊張のせいか、彼は額に汗を浮かべながら言う。表情も強張っていて、いつもの笑顔はどこにもない。このまま彼を待たせるのは可哀そうだ。
それに、この返事にいくら時間をかけたところで私の中では何も変わらないだろう。
「……お願いします」
「え、マジで!」
これまで恋愛経験のなかった私だが、交際というものに興味はあった。
彼なら悪くないか。
その程度の気持ちで、私は彼の気持ちを受け入れた。それだから彼のあまりに嬉しそうな笑顔に少し申し訳ない気持ちになる。
「うん、私で良ければ」
あなたのことが好きではないかもしれない、私で良ければ。
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