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目が覚めたのは昼過ぎだった。
カーテンの隙間から差し込む、高く上がった太陽の光が目に刺さる。
「香子」
「……ん」
隣に寝ている孝介の声に、寝すぎてぼんやりしている頭で返事をする。長時間のデスクワークで肩が張っていて、少し頭も痛い。
「今まで会えなくてごめん」
私が言おうと思っていた「ごめん」を先に言われてしまった。
「俺、東京に来て仕事で成功することばっかり考えてた。同じようなスーツ着て、同じような髪型のサラリーマンと一緒に電車に詰め込まれて『この中の”乗客A”じゃ終わりたくないな』って、そんなことばっかり考えてた」
――だからごめん、と彼はもう一度謝る。
「……私のほうこそ、ごめんなさい。ひどいこと言って」
「いいよ」
孝介は最初からそう言おうと決めていたかのように言った。
そして起き上がった彼はカーテンを開ける。急に部屋に立ち込めた光で目が眩む。
「なあ、香子」
白く眩い空間の中に彼の声が聞こえる。
「一緒に住もうか」
薄目を開けて、彼のシルエットを見つける。私は左手を伸ばす。
「……うん、いいかも」
そう言うと、彼は私の手を取って昔と同じように笑った。
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