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有名な心霊スポットですから同じように肝試しに来る若者も多く、入口のドアは鍵がかかってないばかりかガラスも全部なくなっていて、簡単に入ることができたそうです。
そのすでにドアの役目を果たしていないただの枠をギィィ…と不気味な音を立てながらゆっくり開き、完全に廃墟と化した病院の中へ一歩足を踏み入れると、中もまあ荒れ放題ですよ。
当然、夜ですから屋内は真っ暗だったんですが、各自持ってきた懐中電灯で辺りをあちこち照らして見ると、雨風が吹き込んで壁や床にはあちこちシミができてるし、待合室の椅子だとか、受付のカウンターにあったものなんかが散乱してる……。
おまけに以前、肝出しに来た行儀の悪い連中がスプレーで壁いっぱいに落書きしてるんですよ。「バカ」とか「〇〇参上!」とか、まあ、その手の実にくだらないやつです。
ですが、その中には一際目を惹く、真っ赤な血のような色で書かれた大きな文字があったんですね。
お、おい! あれ見ろよ! …そう声をあげながら、一人がそちらを懐中電灯で照らすと、他の二人もその文字へ目を向けます。
〝呪ってやる〟……おそらくは、そういう意味合いで書こうとしたんでしょう。本当に血のように赤い色をしていて、所々、血が流れるように垂れてしまっている気味の悪い文字ですよ。
だけど、「呪」という文字の口偏が示偏、つまりカタカナの「ネ」の字になってるんですよね……そう。〝呪ってやる〟じゃないんです。これじゃあ〝祝ってやる〟なんですよ。
恐ろしいどころか、たいへんおめでたい言葉です。
それまでの不気味な雰囲気も一気に消し飛んで、なんだか明るい気持ちにもなってきてしまうんだな。
たぶん、この文字を書いたやつが漢字に弱いおバカだったんでしょうね。
三人はその文字を呆然と見つめながら、こいつ、小学校の漢字ドリルをもう一度やりなおすべきだな……と全員が心の底から思ったそうです。
(呪いの文字 了)
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