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Truth
現在時刻8時1分。あのあと甲斐先生の専属運転手である杉谷さんにRochまで送ってもらい、なんとか間に合った。
彼に礼を言って車から降りる。目の前には、待ち合わせのバーが佇んでいる。
入店すると、瀟洒でモダンな雰囲気の見慣れた内装が目に入った。カウンター内でシェーカーを振っているりょうさん(店長)に会釈され、軽く手をあげて応える。
カウンターに視線を移すと、例の人物がバーカウンターのハイスツールに座っていた。
「ごめんなさい、ちょっと遅れちゃいましたね」
そちらへ歩み寄り柊に軽く謝ると、彼はにっこり笑って俺に座るよう促した。
「だいじょーぶだいじょーぶ、こんくらい遅れたうちに入んないよ」
へらりと笑って受け流す彼。俺も笑って彼の隣に座る。彼はりょうさんへ注文を始めた。
「バーテンさん、俺はウイスキーフロートね。彼には...」
彼は少し考えてから、言った。
「......ロブロイを」
「...畏まりました」
りょうさんはくすりと笑って、カクテルを作り始めた。俺も隣の彼に向けて、くすくすと笑いを溢す。
「そんなに俺が気に入りました?」
「あはは、そーだねぇ。きみ美人さんだもん」
そう言って、爽やかに笑いかけてくるのに俺も苦笑を返す。りょうさんからカクテルを受けとり、グラスを傾けながら談笑する。
「それは光栄です。“あの”有名人にそう言ってもらえて」
「え~俺のこと知ってるのー?」
意外そうな反応を見せるが、彼が有名人であることは本人が一番よくわかっているはずだ。
「勿論です。...浮気性の遊び人だって、大学内じゃ有名ですよ?」
甘ったるくて度数の高いこのカクテルのように彼の耳元で妖艶に囁き、するりと膝から内股にかけてを撫で上げてやる。
すると、彼も仕返しとばかりに俺の耳許に唇を寄せ、呟いた。
「...へぇ、じゃあきみは...」
「俺がそんな“浮気性の遊び人”だって知ってて、その上でお誘いに乗ってくれたってこと?」
そんなあやふやで在り来たりな駆け引きも、何故だか今日は愉しく感じられた。
「...勿論」
完全に雄のそれと化した誘惑の瞳を向けられ、俺としても頷かないわけにはいかなかったのだ。
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