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Memories*
物心ついたときから、俺には家族がいなかった。いるのは相棒と友達だけだった。そのことについてはまたあとでお話しするとして、今は別の話をしよう。
俺と相棒とは随分長い付き合いで、最早腐れ縁のようなものだったが、俺はそいつのことが大好きだった。優しくて穏やかで、強くて包容力があって。憧憬の的でもあった。
そして、そいつには弟がいた。
自閉症スペクトラム。
神経発達症群に分類されるひとつの診断名で、コミュニケーションや言語に関する症状があり、常同行動を示すといった様々な状態を連続体(スペクトラム)として包含する診断名である。
彼の弟は、この自閉症という障がいをもっていた。
俺と彼は、この弟をとても可愛がり、世間から守った。
彼らには家族がいた。父親と彼ら3人だけ。そして彼らは、というよりも弟のほうは、父親から虐待を受けていた。
彼の父親は頭もよく秀でていた彼のことがお気に入りで、しかし一方自閉症である“出来損ない”のもう一人の息子には、憎しみとも似た感情を持ち、それをそのまま本人にぶつけていたのである。
そして俺はそのことを知っていたから、時々彼らの家を訪ねてやった。泊まっていくことも多かった。何せ子供ながら一人暮らしだったのだ、門限もなければ叱る親もいない。
彼の父親も俺がいるときは流石に彼らには手を出さなかったし、俺は自分の体をその父親に好きにさせ、その代わりに彼らへの負担を減らしてくれるよう頼んでいた。そしてその父親もそれに従った。
つまり、俺が体を捧げれば、二人は安泰、しかも気持ちいい。俺にしてみれば一石二鳥だった。
それに元から俺は、快楽主義者だったのだ。
俺がセックスを覚えたのは6歳のとき。当時よく遊んでいた公園で男に強姦されたのだった。その際に刻み込まれた快感は俺を支配し、この歳になるまでずっと夜遊びは続いている。
幸か不幸か、俺は男っぽさを残しつつも中性的な容姿を持ち合わせているため、その手の相手に困ったことはなかった。
...今も、然り。
ぱらぱらと、雨が屋根に跳ねる音が耳に入った。ぽたり、落ちた汗が俺の頬を伝って床に吸い込まれていく。
あのときとは違う感覚。
だってこれは、“オアソビ”じゃない。
「はっ、はっ、」
見上げれば、目に入るゴールドのマッシュ。俺の上で腰を振る男の、その端正な顔が一瞬歪み、体内に熱を感じた。
「っちょ、中はやめてって言ってるじゃん...」
「っん、別にいーじゃん。すぐ洗えばさぁ」
先ほどの熱の入りようはどこへやら、すぐさま行為は終了を迎えた。男は俺の上から退き、シャワールームへ消える。
その姿を見て、少しだけ寂しいなとか、思ったりもして。
(まあ、別にいいんだけどね)
なんて思いながら、実は泣き出してしまいそうな俺もいて。
「うーー!」
枕に顔を埋め、うつ伏せに寝転がって足をばたつかせてみたけど、余計に辛くなるだけだった。
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