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Old tale
思えばきっかけは、なんてことない些細な出来事だった。
_________1年前_________
次はここから反対側の棟にある講義室での授業だ。内心移動を億劫に思いながらも、残り7分と時間が迫っているため若干急ぎ足で歩を進める。
焦燥感に顔をしかめながら、一瞬腕時計を見て時間を確認しようとした、その時。
「うわっ、」
危ないと思ったときには時既に遅し。
顔に軽い衝撃と体温の感覚。ふわりと香る甘ったるい香水の匂い。
「うぁっ、!すみません!大丈夫ですか!?」
俺の生きる世界が定番の少女漫画か何かなら、きっとここでキスのひとつでもしていたのだろうが、そうはならないのが現実というやつである。
そう、これは現実。そしてこんな状況であっても俺の理性や思考回路はクリアである訳で。
このときには既に俺の頭の中ではこのあとのシナリオが完成されていた。愚かにも、この状況を半ばラッキーだとも思っていた。
......それがまさか、1年半後の俺をあんなにも狂わせるとは、1年後の“今”の俺もまだ知りはしなかった。
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