Beginning of love

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Beginning of love

「あーうん、だいじょーぶだよ~」  俺に向けてにっこり笑う整った顔。彼は如何にも女子ウケしそうなキラッキラの笑顔を浮かべている。だが俺はその瞬間、この人間に対して僅かな、しかし確かな違和感を覚えた。  とても柔和でちゃらけた笑顔をして一見単純そうであるのに、その眼の奥に一体どんな感情が宿っているのか感じ取れなかったのだ。  俺は元から、この男を知っていた。というのも、彼はこの大学内ではとても有名人だからだ。  柊慶介。学年首席、根っからの遊び人で有名で、性別にかかわらず大学内の可愛い子たちをとっては食い荒らしているという噂。今や彼を知らない人間はこの大学にはいないと言っても過言ではないほどの認知度である。更に彼の家族構成、生い立ちなど、俺はそういったデータも入手していた。  理由は一つ。単に気になったからだ。(読者の皆さんにはまだ明かすことはできないが、)こんな“仕事”をやっていると疑り深くなってしまうのも当然であるし、周りの人間の情報を把握しておくことは重要だ。  俺は、基本的に顔を見るだけでその人間の性格や思考傾向が判る。それはあくまでも印象やイメージといった単なる感覚にすぎないが、観察し洞察することで大方の人間性は一目で分かる。  しかしこの男、掴めない。俺の洞察力を以てしても、作られた雰囲気を破れない。  しかしだからこそ、俄然興味が出てきた。丁度暫くのお相手が決まっていなかったことだし、試しに釣ってみようかという気になった。...なってしまった。 「ほんとすみません、急いでて前見てなくて...」  謝り少し頭を下げると、彼はまた間延びした声で、いーから頭あげなよ、と許可を出した。 「俺もごめんねぇ。おしゃべりしてたから気付かなくてさ」  それから少し苦笑する。俺も微笑を返せば、彼の目の色が変わるのが窺えた。  その様子に密かに憫笑して、思い出す。そういえば時間が迫っていたのだった。時間がないのでこれで失礼します、すみませんでしたとひと声かけ、再び歩き始めようとしたとき、腕を掴まれた。  そして端的に、一言。 「ねぇ、今夜、予定ある?」  余裕の表情で言い放たれた。俺はというと、ふふっと笑ってしまった。 「...8時に、Roch(ロフ)に来てください。この辺りのバーです。分かります?」  彼が頷くので、俺はその場を去った。
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