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今日の講義が終わった。...俺は正直、授業なんて受けなくても医学については全部理解してる。まあ、きっちり6年間授業受けないと国家試験も受けられないし、あと3年頑張るしかない。そもそも俺の場合、医師免許なんてとったところで建前なんだけど。
さて、今が6時3分か。約束までまだあと2時間程ある。一旦帰って時間を潰そう。
大学を出て、大通りに出る。
曇り空に、湿った空気。それに...。
「...嫌だな」
嫌な風だ。一人呟く。ああ、また一波乱起きそうだな。
♪~♪~♪~♪~
と、胸ポケットでスマホが振動し始めた。しかし、敢えて無視。だって相手も用件も分かりきっている。
歩を進める。
♪~♪~♪~♪~
一向に鳴りやまない着信音。......仕方ないか。
通りからちょっと抜けた路地裏へ入る。それほど深くは進まず、出口と突き当たりの間付近でスマホを取り出し、着信相手が"6"と表示された画面を横にスワイプする。
「はーい俺です、どうした?」
『どうしたじゃないよ、もう!律さん出るの遅すぎ!なんかあったかと思うじゃん!』
想像通りの高い声。その持ち主は、俺のチームの補佐的立ち位置にいる大倉怜玖(おおくらりく)。
俺に言わせれば、これで男だっていうんだから本当に驚きだ。おまけに外見やスタイルまで中性的で可愛らしいときた。実際外部への振る舞いも完璧に女子のそれであるし、ハニートラップに駆り出される比率も他のメンバーに比べて特段高い。
だが実はこいつが容姿に反して仲間内ではドSのバリタチであるということを、俺らは知っている。
「はいはい、ごめんねー」
『絶対反省してないでしょ...まあいいや、それで_』
例の件なんだけど、と彼が続けようとしたとき。いや、正確にはその声が俺の耳に届いた直後。後ろから伸びてきた何者かの手が俺のスマホを地面に落として、俺の意識まで拐っていった......
__最後に聞こえたのは、俺を案じる怜玖の叫び声と、
雨の、音。
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