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◆◆◆
で、最後の帰り道。
ダラダラ歩いてたら、
「……まあ、これでお前らともお別れだな」
って、斉木が言った。
「まあ、そうだろな」
たぶん今日が終わったら、明日からこのふたりとは遊ばなくなるんだろうなって思った。もともとヤンキーもオタクも、付き合いがあったわけでもないし。
で、前からちょっと気になってたことをふと思い出した。
「そういえばさ、訊きたいことがあったんだよね、斉木に」
「なに?」
「お前さ、学校でほかのヤツらから『ミヤオ』って呼ばれてるだろ? あれなんで?」
「あー。べつに大した理由じゃねえよ。お前、キュウビノキツネって知ってる?」
「妖怪の?」
「うん。小学校のときにさ、なんか話の流れで、キュウビノキツネの漢字を書けるかってなって、そんときおれさ、『数字の九に尾』の九尾じゃなくて、『宮殿の宮に尾』の宮尾って書いちゃったんだよね。知ったかして」
「なんだよそれ? 宮尾からミヤオになったってこと?」
「そうだよ」
「しょうもねえな」
「しょうもねえよ。でもおれはもうミヤオだから、お前に斉木って呼ばれるの、最後まで慣れなかったな」
「じゃあ、学校でミヤオって呼ぶわ」
「やめろよ、仲良いと思われるだろ」
「おれも呼ぶわ、ミヤオって」
「越野はマジでやめて」
「なんでだよ!」
越野の大声に、向かうから来てたサラリーマンがビクッてなって、おれと斉木は笑った。
これもたぶん見納めだな。
「じゃあなー」
分かれ道まできて、あっさり斉木と別れた。
で、しばらく越野とふたりで歩いて、また分かれ道にきた。
「じゃあな」
越野が言う。
「なんだかんだ楽しかったよ。ありがとな、越野」
「……おれさ、明日からも塾に行くことにしたわ」
「マジで?」
「マジで」
「まあ、がんばれよ」
「ああ、がんばるわ」
そんな薄い会話で、越野とも別れた。
ひとりで歩きながら、これであいつらと一緒に遊ぶとかはもうないだろうし、たぶん、このひと夏のことは、あんまり思い出すこともないんだろうなって思った。
部活も夢も無くなって、彼女もいないし、やったのは、勉強と一本の線香花火だけ。
たしかに斉木の言うとおり、マンガだったら、0点のオチだけど、これが今年の夏の思い出だ。
とにかくまあ、つぎの夢を見つけようと思う。
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