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マジか?
マジでいるのか?
ドキドキが止まらない何秒間かが過ぎて、
「——いないんだな、これが」
って、斉木が言った。
いねえのかよ! って言おうとしたら、
「いねえのかよ!」
って、おれより先に越野が怒鳴って、ほかのヤツらがビクッてなった。
「ダハハハーッ。面白くなかった? いまの間」
斉木がぜんぜんビビらずに言う。
「……クソだな、お前」
しばらくしてから越野が言って、笑った。
越野が笑ってるの、はじめて見たかも。
◆◆◆
で、十日が経って、気がついたら、斉木と越野といつも一緒に帰るようになっていた。
越野はいつも無口で怖いし、斉木はずっとくだらないこと言って笑ってるだけなんだけど、ふだん学校でしゃべったこともないふたりと帰る時間は、そんなに悪くなかった。
「でもダルイよなー、夏期講習」
帰り道、斉木が言う。
「おれは楽しいよ」
越野が意外なことを言って、すこし照れ臭そうにした。
「へえ。そういえば越野ってさ、なんで夏期講習やってんの?」
斉木が訊く。
「大学に行きたくてよ。このままだったら、アタマの悪い高校しか行けねえから」
「へえ。なんか夢でもあるわけ?」
「先生になりたくてな」
越野が先生か。なんか、すげえな。
「……すげえな。おれはもう夢とかないなー」
「もうってなんだよ、もうって」
斉木が細かいとこをついてくる。
「やっぱさー、おれプロになりたかったんだよ、野球の。でも、そんなの無理じゃん」
「まあなあ。鈴木じゃ、無理だわなー」
おいおい、「そんなこと分からないだろ」とか言わねえのかよ。
「まあでも、これからほかの夢を見つけられるんだから、ラッキーだよな」
ラッキーか。そんなふうに考えたことなかったな。
「斉木はなんかあんの?」
越野が訊く。
「なんだと思う?」
「知らねえよ! 彼女かお前は」
「彼女いたことないだろ」
「うるせえ!」
なんか、日に日に斉木の越野イジリが上達していってる気がする。
結局、斉木の夢がなんなのか分からなかったけど、まあ、べつにいいか。
◆◆◆
そして最終日。
あっという間の二週間だったなーと思いながら最終テストをやって、受け取った。
ぜんぶの成績が上がってて、これでゲーム機は守れた。
で、帰り道。
「なあ、きょうの夜のさ、花火のやつ行く?」
斉木に訊かれて、そういえばそんなのあったなって思い出した。
「お前はどうすんの?」
「いや、行くだろ。だって、花火だぜ? ほかのクラスの女子とかも来るんだぜ」
そういうことか。
「越野はどうすんの?」
訊いてみると、
「……行ってみるかな」
意外な答えが返ってきた。
「よっしゃ、いいね。越野、成長したな」
「親かよ!」
「さんざん迷惑かけてきたからな。親孝行しろよ」
「うるせえ!」
すっかり斉木にイジられるようになった越野。
「じゃあ、おれも行こうかな。たしかに斉木が言ってるみたいに、女子と仲良くなれるかもしれないしな」
「ひひひ。いいね。ぜったい来いよ」
言って、斉木が満足そうにうなずいた。
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