マンガだったら、

3/4
前へ
/4ページ
次へ
◆◆◆  で、夜の七時。  まだあんまり暗くなってないけど、それはしょうがない。  約束どおり、斉木と越野も来ていた。  でも今のところ、駐車場の端っこでおれたち三人は一緒にかたまって、駐車場の真ん中のところで楽しそうにしている二十人くらいの男女グループを見ているだけ。 「お前こういうの得意なんだから、ちょっと行って来いよ、鈴木」 「なんでおれなんだよ?」 「お前、学校だったらもっとガツガツいってるだろ」 「学校ならな。ひとりじゃキツイって」 「やっぱなー、野球部きらいだわー」 「野球部な」 「じゃあ、越野。行ってくれよ」 「いや、無理だろ」 「分かった。じゃあ、ジャンケンな」  斉木の強引な提案でジャンケンすることになって、越野が一撃で負けた。 「クソが!」  越野の大声に、男女グループがビクッてなった。 「……行ってくるわ」  覚悟を決めて、越野が男女グループに向かっていった。  なんかケンカに行くときみたいな背中だけど、大丈夫か?  越野はそのままの勢いで男女グループに突っ込んでいって、ビクビクしてるべつの学校の女子としゃべりはじめた。 「おー、なんかいい感じじゃねえ?」 「たしかに。なんかカツアゲしてるみたいだけど」  って期待していると、越野がなんか手に持ってもどってきた。 「もらってきたぞ」  三本の線香花火を見せる越野。 「……ウソだろ?」  斉木が言って、鼻から息をもらした。 「分かった。おれが行ってくるわ」  こんどは斉木が覚悟を決めて、グループに突っ込んでいった。  で、女子とヘラヘラしゃべって、手になんか持って戻ってきた。 「もらってきたぞ」  ライターを見せる斉木。 「……ウソだろ?」  こんどは、越野が言った。  おれはなんかもうおかしくなって、笑いながら、 「しょうがねえ。もうしょうがねえ。やるか?」  って、ふたりに言った。  で、三人で円になって、線香花火に火をつけた。  チリチリチリチリって、線香花火が散ってゆく。 「……これ、マンガだったら、0点のオチだな」  斉木がため息をつきながら言う。 「まあ、現実はこんなもんだろ」 「これが? これがおれのひと夏の思い出かよ?」 「でもおれ、ひさしぶりに花火やったけど、けっこう楽しいな」  越野がガラにもないこと言って、笑った。  おれもそういえば久々の花火だったから、なんかこれはこれでいいのかなって思った。  線香花火は呆気なく消えて、『花火大会』も終わった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加