アルバトロスの塔

10/23
前へ
/144ページ
次へ
一方撫子は疎外感を覚えていた。彼女には『フロア』も『ヒール』もわからない。 「おい、この階段で発動するはずの大岩が転がらないぞ」 「あー、大岩補充されていないみたいすわー」 「いつもは誰が補充しているんだ?」 「さあ?」 「さあってなんだ」 一階を上がり二階へ。 「だってうちらサキュバスですもん。大岩補充とか、力仕事なんて無理くないすか?」 「ならば力自慢の魔物を派遣しよう」 「いや、男の魔物は勘弁す。絶対モメるんで」 「セクハラを警戒しているのか?」 「どっちかっつーと男側が勘違いして勝手に争ってギクシャクされますかねー。うちらプロなのに、同じ職場になってちょっと笑顔見せただけで期待されるんすわ」 「……性別のないゴーレムなんかを派遣しよう」 寝ているだらしない身なりのサキュバスを横目に三階へ。 「なんでここはサキュバスばかりなんだ……戦力偏りすぎだろ……」 「街が近いんで夜そっちに出勤するのに便利なんすよー。男性型魔物もさっきの理由で居着かないしー」 「なるほど、男の侵入者には強そうだが、女の侵入者には効きそうにない」 「ですねー」 「あとなんで彼女達はそこらで寝てるんだ」 「夜の仕事ですから。昼間は寝てるもんすよ。でも、確かに皆そこいらで寝てるってのは変すねー」 ふと、蘇芳は足を止めた。サキュバスにだって休日はある。ならば昼間でも起きている者もいていいし、案内役であるクララまで寝ていたというのはさすがに妙だ。 しかし視察せねばならないため蘇芳は足を進めた。 そして四階に上がる直前、石版を特定の順番で押すというパズル形式の障害があってそれを難なく解いた。 「ああ、石版の手垢でどの石をはめればいいかわかってしまう……」 「サーセンー」 「マメに掃除しておいてくれ。フロア内にヒントがあってそれを探し回らせるつもりだろうが、これでは数回組み合わせを試せば解けてしまう」 「当番決めておくっすー」 「ていうかヒントも必要なくないか?」 「パスワード制なので忘れる子がいるんすよー」 「ならば仕方ないか。だが石版を特定できないよう掃除は徹底してくれ」 そして四階へ。あと一つ階段を上がれば魔王がいる。しかしその時、撫子が先を歩いた。 「蘇芳様。私、先に五階へ参ります」 風呂敷を抱えたまま、先程から黙ってついてきていた撫子が言った。 「どうしたんだ、急に」 「物資ははやくお届けした方がいいし、蘇芳様も内部をじっくり観察できるよう分担できる方がよろしいかと思いまして。では!」 いつもより固さのある声と表情で、撫子はそんな言葉を残す。そして蘇芳が反論する前に先へ進んだ。その一瞬で彼女の背中は見えなくなった。
/144ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加