アルバトロスの塔

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「一体どうしたというんだ。撫子はあんなに功を焦るようなやつではないだろうに」 心底理解できない様子で蘇芳は言った。その様子を見て、クララはうぷぷと笑い出す。 「やり手のおにーさんでも部下の気持ちまではわからないもんなんすねー。あの子も焦るはずっす。おにーさんの役に立ちたいのに、役に立ててないんすから」 クララは気付いていたそれを指摘した。撫子がここでした事といえば、一階の罠を停止させたくらいだ。 「いやしかし、荷物を持たせていたし、その荷物が重要だから守ってほしいと言ったし、そういう仕事だとわかっているはずじゃ」 「でも、あの子途中からまったく喋っていなかったじゃないすか。おにーさんも、荷物が大事なら持ってるあの子にも声かけてやりゃあいいのに」 あ、と蘇芳は自分のしたことに気付く。 確かに途中から撫子は会話に参加しなかった。それは彼女がカタカナ語が苦手だからだ。カタカナ語をはさみ、仕事の話をされれば割り込めない。 わからない事があってもやもやしたまま撫子は二人の後をついて歩く。自分の仕事が大事なことはわかっているが、蘇芳が注意を向けないため自分は大した事はしていないのだと気付く。そのうちに焦りだす。役に立ちたいと思ってしまう。 こんなゆるいダンジョンなら先に進む方が役に立てるのではないか、と彼女は考えたのだろう。 「そうか。荷物が大事なら声をかければよかったんだ。ついこのダンジョンにツッコミどころが多くて撫子を忘れていた」 蘇芳は反省した。改善点ばかり目に入り、撫子を見なかった。急に外国に来て、幼い彼女は不安だったはずだ。しかしそれに文句を言う彼女ではないので、役に立つ方向で動き出す。 すぐ追いかけようとする蘇芳の羽織を、クララは掴んで止めた。 「まぁまぁ。頭冷やしましょーって。今追いかけてもお互い気持ちの整理ついてないし。このダンジョンはツッコミどころ多いくらいだし大丈夫っしょ」 「……そうだな」 謝るのならお互いにどこが悪いかを理解してからの方がいい。案内役が止めるくらいなので、このフロアもとくに恐ろしい罠はないのだろう。 「しかしあの子も真面目っすね。従者だからって役に立ちたいとか考えるんだから」 「仕方ないんだ。撫子には負い目がある」 「負い目?」 「あの子が故郷で殺されそうになったから、俺は撫子を連れここまで逃げてきたんだ」
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