アルバトロスの塔

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「そう、つまりダンジョンとは重要な拠点だ。自身や武器防具を強化し、魔物を繁殖しやすくしたり、魔石を生む。魔石については以前話したか?」 「はい。濃い魔力が結晶化してできる物質で、これがあれば魔力を持たない人間であっても魔法が使えます」 カタカナ語さえ話さなければ撫子は優秀だ。満点な答えを返す。教師でもないが蘇芳は誇らしくなった。 「そう、だから人間は魔石がほしい。それにこんな重要な場所は制圧して自分たちのものにしたいし、魔物が巣食うと近くの街が危険だ。しかしダンジョンはそう甘くない。複雑な作りやトラップで侵入者を排除するものだ」 「虎区を……そんな区域を用意するなんて恐ろしいですね」 「トラップ。罠の事だ」 「それって、うちの城であった、弓が飛び出すアレとか落とし穴に竹槍のアレとかでしょうか」 「ああ。もう『うちの城』ではなく、『鬼族当主の城』だが」 はっと撫子は顔を青ざめる。まだ昔の癖が抜けておらず、言ってはいけないことを言ってしまった。 しかし蘇芳はそれを咎めるつもりはなく、ただ言い直しただけだ。 「いいんだ。ただ、撫子は気持ちを切り替えてくれ。俺達は鬼族だが、もう故郷には帰れない。俺は次期当主でもない。この遠い地で、魔王陛下に仕えて生きる。そう決めたんだ」 「……はい」 蘇芳はもさりとした前髪をかき上げる。すると額には小さな石ののような突起が二つあった。それは鬼の一族の証、ツノだ。その証明に、撫子も前髪をあげツノを見せる。 東の国、コウを中心として生息する鬼の一族。二人はその一族だった。その姿は人に近く、魔力はさほど持たないが刀や忍術など、独特な戦闘技術を持つ。 その証であるツノは昔は大きく敵を威嚇するようなものであったらしい。しかし威嚇が必要ないほどに強くなったこの種族にとってツノはかえって邪魔となったのだろう。ツノは代を重ねるごとに小さくなり、今では前髪に隠れるほどだ。 「なぁ、撫子。そんなに慣れないのならいっそ俺達の主従関係を解消してもいいんだぞ。俺ももうなんの立場もなく、魔王陛下の部下なだけだ。撫子も俺と離れて普通に店をひらいたりしてさ。こちらでのんびり過ごすのもいいだろう。魔王陛下にお願いすれば、お前だけは好きに生きられるはずだ」 「そういうわけにはいきません! 私は若様のおそばでお守りします。これはずっと昔から、命を救われる前から、決めていた事です!」 撫子がはやくここに馴染めるような提案をした蘇芳だったが、強く断られてしまった。それだけ彼女の決意は揺るがない。 「この塔の最上階にいる魔王陛下に支援物資を届けること。それがわかさ、蘇芳様に与えられた任務です。ならば私はそれの手伝いをさせてください!」 凛とした声を張り上げて撫子は言った。
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