アルバトロスの塔

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風呂敷の中は箱だろう。持てなくはないがなにかがぎっしりつまっていて重い。 もしかしたら魔物の創造のため、必要な備品かもしれない。例えば魔力の充填に役立つ魔石とか。だとしたら誰かが奪いに来てもおかしくはないし、扱いが悪いとすぐに割れてしまう。 撫子はぎゅっと風呂敷を抱きしめるようにして持った。主人に与えられた任務なので中身を詮索するつもりはない。無事に運ぶだけだ。 そして塔の内部に入る。石造りの塔なだけあり、入るとひやりとした空気に包まれる。和装で厚着の二人にはちょうどいいほどだ。 「……ものすごく古そうなのに、意外に内部は朽ちてはいませんね」 「ああ、そのあたりも龍脈の影響だろう。罠をしかけるため改築しているというし」 周囲に警戒しながら歩く蘇芳。しかしその蘇芳は、草履でふわっとしたものを踏んだ。 あわてて下を見る。どうやら床が石畳から絨毯張りに変わっていたらしい。 撫子も恐る恐る絨毯を踏む。 「わぁ、ふかふか」 「そうだな、ふかふかだ。しかしなぜ絨毯張り?」 ここは質素な作りの塔であったはずだ。真紅の柔らかな絨毯張りというのは、外装とあまりにもあっていない。 しかしふかふかを楽しむ撫子は、ぶにっとしたものををふんだ。 「ぎゃっ」 ぶにっとしたものが鈍い悲鳴をあげる。撫子は荷物をかばいつつ飛び上がって驚く。蘇芳がその音の元を見れば、それは影に紛れた人である事がわかった。ただしくは、人型魔族だ。大きなツノと黒くしなやかなしっぽでわかる。 生成り色のゆるゆるとした服をきた人型魔物は、床にうずくまっていた。長くうねる髪に、よく見れば丸みを帯びた体付きから女性であることもわかる。 「んあ、なんすか。もう朝っすか」 力の入っていない女性の声。それとともに、その人型魔物は起き上がった。 「なんか急に眠くなったんすよね。しかし尻尾踏まれて起こされるとか、ないわー」 「君は……?」 「つーかおたくらこそなんなん?」 人型魔物は長くうねる髪は手櫛のみで整え、一瞬だけ女性的で美しい顔立ちが見えた。しかしそれを台無しする身なりだ。きちんと整えればかなりの美女となるだろう。 「あぁ、もしかしてお二人さん、あれっすか。例の魔王様の応援」 「……では、もしや君が案内魔物か」 「はいっす。サキュバスのクララっす」 サキュバス、と聞いて蘇芳は目を疑った。撫子は聞き慣れない単語すぎて理解できない。 この、約束があるのに寝てしまい、ろくに敬語も扱えず、来客をおもてなしできないサキュバスが案内人だというのか。それとこんなだらしない身なりの魔物がサキュバスというのも信じられない。
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