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「あ、そこは鎌状の刃物が発動するっす。いや、血溜まりは一応始末してんすよ。でもどうしても黒くなるっていうかー」
「絨毯じゃなく石畳なら始末も簡単なはずなのに。ああもう、血液汚れはそう簡単に落ちないんだぞ」
「サーセンー」
まるで反省した様子がなくクララは詫びた。
石畳なら掃除しやすく罠も気付かれにくい。しかし絨毯は最悪だ。掃除しづらく血痕が残る。侵入者に罠を察知されてしまう。だから早急にこのシミを消さねばならない。
「撫子、罠を解除か停止できるか?」
「はい、もちろん。あっちですね」
すぐさま察知能力に優れた撫子は罠に気付き、罠へと向かう。大きな刃がロープに繋がれていて、床にあるスイッチが重さで反応しロープにつけた刃が動くというタイプの罠だ。なので撫子はそのロープを動かないようにした。
そして安全となった血痕の上で、蘇芳は膝をつく。そしてどこに持っていたのか大根を取り出した。それと同時におろし金も出す。
そしてしょりしょりと、蘇芳は大根を下ろしだした。
「いやいやいや、なにしてんすかおにーさん」
クララだけが突っ込む。撫子はこういった展開には慣れているので口を出さない。
「大根おろしをこうして薄い布に包み、汚れ部分を叩く。これで少しは血痕も薄れるはずだ」
蘇芳は絨毯の根本まで届くように大根の汁を叩きつけた。そんなまさかと思っていたクララだが、黒いシミはじょじょに薄れていく。
「これで良し。まぁ、完全に消すことは難しいが、これで罠が見破られる確率は減るだろう。この汚れた大根おろしはそのへんのスライムにでも食わせておけ」
当然大根おろしは汚れる。食材を無駄にすることは彼のポリシーに反するが、雑食でなんでも食べるスライムならばこれを食べさせても問題ない。
クララはぽかんとしながらも感想を口にした。
「すげー、まじですげー。なんすかおにーさん。もしかしてプロのクリーニング業者すか?」
「ふふん、蘇芳様はなんでも知ってる鬼なのです!」
『風呂の栗忍具業者』が何か知らないが、撫子は自分の事のように誇る。
なんでもは言いすぎだと蘇芳は思う。彼はただの家庭的な男子に過ぎない。いつか当主になって妻を迎えた時、互いに支えあえるよう家事すらも学んだのだ。
その『鬼』にクララは反応した。
「鬼っつーと、おにーさん達、コウの出身すか。よく見りゃ着物着てるし」
「あ、あぁ。よく出身地がわかったな。着物はともかく、鬼なんて世界的にはマイナーだろうに」
「よく出張行くんで。あのへんの男の人、黒髪のおしとやかで一途な女の人好きなんですよねー」
サキュバス仕事の裏事情を聞いて、蘇芳は何も言えなくなった。あくまでクララの見聞きしたもので、それが正しいとは言えない話だ。
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