アルバトロスの塔

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「つかおにーさん、こっちの言葉うまいっすね。同じ言葉でもこんだけ東西離れてると意味の違いや訛りとかめちゃくちゃ出るのに」 「あ、あぁ、以前からこちらと交流があったからな。文のやりとりもした事がある」 「鬼族って魔王軍とは敵対してはいないけど、傘下ではなかったすよねー?」 なかなかに鋭い事を言うサキュバスだが、それも彼女が仕事で手に入れた情報だろう。 その通り、鬼族は東の島国コウに住んでいて他の国の魔族とはあまり関わりがない。鬼族としては大陸の魔物に手を貸す理由はない。魔王軍からしてみれば辺境の一族をわざわざ呼びつける必要がない。 しかし蘇芳は次期当主として積極的に大陸の事を知った。撫子が苦手なカタカナ語であっても、蘇芳が得意なのはそのせいだ。 「まぁ、いろいろあるんだ。それより絨毯張りの事だが、やっぱり石畳に変えてくれ」 「えー」 これ以上は話が長くなるので蘇芳は話題を変える。クララは不満の声をあげた。 「ただしここにいる間はヒールを履かなくていい。仕事にヒールを履くのなら手当もつけよう。そう魔王陛下に進言するつもりだ」 けだるげな雰囲気のクララだが、それを聞いてがらりと雰囲気を変える。 「え、マジすか?」 「あぁ、約束する。多分その条件で通るだろう。とはいえ、サキュバスが仕事用のヒールをやめるまでは無理かもしれないが」 「それはそーゆー仕事なんでいいっす! いやー、話がわかる人すねー。もしやヒール経験者では?」 「ヒールははいていない。昔、体幹強化のため一本足の下駄を修行で履いていただけだ」 「あぁ、あの天狗がよく履いてるあれっすね」 話が意外に盛り上がる。理解ある蘇芳にクララは気を許したのだろう。こんなふうに、魔王に物資を届ける途中にダンジョンの改善点を指摘し、守りを固める。それもまた彼らの任務のうちだ。 「よし、この調子で上のフロアに上がろう」 「はいっす!」 すっかりクララはやる気となっていた。魔王陛下に意見できる蘇芳が、これだけ親身になってくれるのならダンジョン内を見てほしい。それが巡り巡って自分のためになるのだから。
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