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小梅おばあちゃん
大正、昭和、平成、令和…
楓の曽祖母、小梅は4つの時代を生きている、もうすぐ100の歳に達する。
しかし今となっては曽祖母から、昔の話を聞くこともできない。
「大ばあちゃん…」
楓はベッドに横たわっている曽祖母を、少し離れた場所から見ていた。
ここは、とある街のとある特別養護老人ホーム。
楓の曽祖母は数年前まで丈夫だったが、足を悪くしてうまく歩けなくなり、身内の不幸が重なったことも関係してか、生きる気力を失い、寝たきりになった。
それから認知症が進み、現在は要介護5…つまり最も介護が必要な状態になっている。
「大ばあちゃん、時代はどんどん移り変わってるよ。
令和の時代になってから、色々大変なんだぁ。
新型コロナウイルス感染症ってのが出てきてね。
世界中を脅かしてるの。
感染者は連日増加。
しかも今年は梅雨明けが遅くて憂鬱な天気が続いたと思ったら、8月になって地球温暖化の影響か、異常な暑さ。
地震や集中豪雨、台風や噴火。
海外では大規模な森林火災もあって……
これから先、どうなっちゃうんだろうね」
曽祖母はどこを見ているのか、濁った虚ろな瞳を遠くに馳せながら、何も答えない。
「ねぇ、大ばあちゃん…なんか言ってよ…」
それでも曽祖母は、答えない。
「あの、そろそろお時間ですので…」
介護士がドアの外から声をかける。
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、面会時間は15分以内と決められているためだ。
「あ、はい、すみません。
…それじゃあね、大ばあちゃん。
また来るね」
また来るね……また、会えたら良いな……
楓は神妙な面持ちで、そう考える。
このような事態だもの…
本当に、今日が最後の対面になっても、おかしくはない。
残酷だけど、辛いけど、それが今の事実。
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