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どうやら誰かいたらしい。不覚だ。痛い、心が。
「はあ、どうもすみません」
どうにか笑顔を作って顔を上げると、こじんまりとした日本家屋があった。縁側で紅白袴を着た女の子が座っている。
それはそれは綺麗な子だった。
年の頃は俺より少し上くらい。
日の光の中で消えてしまいそうな儚い白肌。
黒真珠よりも黒い、猫のような大きな瞳。
瞳と同じ色の艶やかな髪はとても長く、縁側にゆったりと垂れている。
桜の蕾のような小さな唇が、今は不思議そうにぽってりと開いていた。
思わず見とれて言葉を返せずにいると、女の子はそれを重症ととったのだろう。
「しっかりなさいまし」
立ち上がりこちらに歩いてきた。
立ち上がってもとても小さい。小さいのに、凛としていて隙がない。
蝉が鳴いている。虚ろに耳の奥で響いている……。
「怪我しているわ」
目の前で膝をついたその子は、懐に手を入れて手鏡を取り出した。
鏡に映った俺の姿は申し訳ないほど無様だった。
頬を豪快に擦りむいている。右目の下には青あざが出来ているし、縛った髪の毛(これが言うことを聞かぬ酷い癖毛だった)がぴょんぴょん飛び出ていた。
「あはは。ほんとだ」
あはは、ともうてきとうに笑うことしか出来ない俺を、女の子は不思議そうに見ている。
こんな綺麗な子の前で、俺、何してるんだろ。
消えたい、むしろ己を滅ぼしたい。
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