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囓った痕のあるすいかを前に、俺は力なく首を振った。
なんだか現実味がない。すいかなんかいらないな、と思ってしまう。
それほどに綺麗で浮世離れした、不思議な女の子だった。
「あ」
そこで気づいた。
振り返ると草木が鬱蒼と繁っていた。蝉がそこかしこで鳴いている。その向こうでは大きな入道雲が聳えていた。
あれこそ泰方家の離れだったのだ。
そして俺が出会ったのは、離れに住まう恐ろしい怪物だった。
泰方家には使用人用の家まである。
鬼と人とで別の建物に住んでいて、10畳の和室が世帯ごとに与えられていた。
俺はそこに両親を含めた3人で暮らしている。
「どうしたんだい」
晩のことである。
布団の上で呆けていた俺に、寝支度を整えた母が話しかけてきた。
「別に!少し疲れただけだよ」
まさか主家の決まりごとに背いたとは言えず、俺は慌てて取り繕った。
そうかい、と心配そうに顔を歪めた母は、くるりと後ろを振り向いた。
「ちょいとあんた、風邪ひいちまうよ。布団かけて寝な」
んあ、といびきをかいていた父が寝ぼけ眼で母を見上げている。
まったく、と面倒くさそうに母は夏布団を掛けてやっていた。
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