プロローグ 1

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いつもの光景、いつもの我が家。 「疲れているのなら、あんたもとっとと寝ちまいな」 ほら灯りを消すよ、と追い立てられて俺は素直に布団に入った。 照明が消えると、部屋の中はたちまち夜の闇が侵食した。 遠くから透き通るような虫の鳴き声がする。 父はまたいびきをかいている。時々息が止まるから、その度に少しどきりとした。 こんな夜も、あの怪物はひとりきりで離れにいるのかな。 「母様」 「なんだい」 「……やっぱり何でもない」 「お前、本当に大丈夫かい?」 のっそりと暗闇が動く。母が上体を起こして、こちらを見ている。 俺は笑って2.3回頷いた。 「大丈夫。おやすみなさい」 「おやすみ」 温かい家族。 少し頼りない父と、気が強いけど優しい母。 この人たちのことを思えば、悪いことなどせずひたすら地味に、平和に暮らしていくべきなのだ。 でも。 淋しくて綺麗だなんて、女の子に対して初めて思ったから。 ごめん、父様、母様。 布団を口元まで上げた。 俺、放っておけないや。 翌日。 昼過ぎ、仕事に一段落着いた俺は、本邸を横切って離れへと向かった。 鬱蒼と茂る草木を見渡しながら、そういえばこの家の庭はどこも綺麗に整備されているのに、ここだけ雑多だな、と気づいた。 離れを隠すためにわざとそうしているのかもしれない。 蝉の大合唱に耳を破壊されながら、木々を抜ける。 離れは今日も夏の喧騒からはぐれて、独りぼっちで佇んでいた。
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