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本邸よりもずっと小さな造りだが、屋根は立派な瓦で出来ていた。夏の日差しに当たって、黒々と輝いている。
雨戸は開け放たれていて、夏の日差しがこれでもかと家の中を焼いている。障子紙の白が眩しい。
苔むした庭には小さな池があり、蓮が1輪浮かんでいた。目覚めたばかりのような淡い桃色が初々しい。
昨日の女の子は何故か、太陽光が燦々と当たっている縁側で爆睡していた。
昨日とは違い、夏物の着物姿だ。
水色の絽の向こうにレースの付いた襦袢が透けている。これは絽の着物を着る時の為のもの、つまり見えてもよいものなのだが、何だか悪いことをしているみたいに気まずくなった。
いや、ここへ来る時点で悪いことなのだけど。
白い額に、玉のような汗が浮いている。頬が赤く焼けている。
「お嬢さん」
声をかけると女の子はぱちりと目を開けて、勢いよく起き上がった。
慌てて体を後ろに反らす。危ない、もう少しで頭突きを食らうところだった。
女の子は大層驚いた顔をして、俺をまじまじと見ている。
「来て、くれたの?」
掠れた声に、俺は少し呆れた。
「貴女が来て欲しいと言うから」
「来ないと思っていたの」
女の子は泣きそうな顔で笑った。
「ここへ来ることは禁止されてるって聞いてたから。だから、貴方も来ないと思っていたのよ」
貴方は大丈夫ですの、と問われて俺は首の後ろに手を当てた。正直大丈夫ではないけども。
「俺みたいな台所勤めの下っ端1人、中抜けの時間に消えたとしても誰も気づかないよ」
そう思うことにした。
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