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プロローグ 1
鬼、と聞けば皆はどんなものを想像するだろうか。
体が大きい。角が生えている。棍棒を振り回す。不思議な力が使える。人を食べる。最近は創作物の影響で、イケメンなんて意見もあるかもしれない。
……それは誰の話だろう。
少なくとも俺は違う。
無力で冴えない地味な俺は、こうしてキッチンで腕を振るうしか能がないのだ。
そんな俺が、自分の身に余る、最早余りすぎて引き摺ってしまうような願望を抱いているのだから、困難極まりないことは間違いない。
まずはこの話からしなければならないだろう。
数十年前、俺とお嬢さんが出会った前世のことを……。
※ ※
時は昭和初期。きな臭い、薄暗い影の漂う時代。
この町、四十万町とて例外なくその影に覆われていた。
人が不安定な時代というのは、いつだって怪異が暗躍する。
だからか四十万町一の祓い屋の大家、泰方家は繁盛していた。
俺はそこで小間遣いをする小鬼だった。
四十万町は不思議なところで、古くから鬼と人との距離が近い。
先祖が鬼、なんて話はざらで、鬼に基づく伝承や怪談を誰もが1つは知っていたと思う。
泰方家の祓い人は式として鬼を使役していた。
が、それは特異な能力を持つ鬼だけで、俺のように無力な鬼は家事やお嬢様の遊び相手など、使用人の真似事をしている。
おかしいなぁ。父様も母様もなんかすごい技が使えるのに。
唯一の俺の特技は家事炊事。
台所のおばちゃん達には喜ばれるけど、ちょっと違う。
何だかな、な日々を過ごしていた俺は、ある日とんでもない失態を犯してしまう。
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