5.絶望が絶望でなくなるとき

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5.絶望が絶望でなくなるとき

 黎が入院した。  幸いにも命に別状はなくて、元気は元気なんだけれど、逃走する容疑者を追いかけて、ビルの二階の高さから飛び降りて、その場で身柄確保はできたけど救急車で運ばれて、緊急手術になって、目が覚めて起きられるようになって、そこへたまたまわたしがいつものように定期の連絡をしたからようやく黎が入院していることを知ったけれど、そのときすでに五日が経っていた。  たしかに聞いたことがある。法的に親族、家族でないと医療行為における役割は制限されるって。何の力にもなれないばかりか面会もできなかったり、ましてや緊急連絡なんかも来ないだろうし、事実婚でもそうなのだから、幼馴染なんてお粗末すぎてお話にもならない。  幼馴染の無力を痛感する。  わたしの存在の無意味を痛感する。  それでもわたしは、内縁の妻でも彼女でもないただの幼馴染の分際で、次の日も病院に行った。 「円さん!」 「あ、どうも」  一階の、今はもう診療時間外の外来を通りかかったとき声をかけられた。  進藤さんは黎の後輩で、昨日入院を知ってわたしがかけつけた時に紹介してもらった。  黎に似て細身の、身長は黎より少し低いくらいの三つ年下らしい。   「よかったー、待ってたんです。今、先輩のとこに他のお見舞いの方いらしてるんです」 「そうなんですか」  その間にお茶でもいかがですかと誘われて、と言っても自販機スペースだったがそこで先客のお帰りを待つことにした。
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