5.絶望が絶望でなくなるとき

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「先輩とは小学校から一緒なんですよね?」 「幼稚園も一緒なんです。もう腐れ縁ですね」 「実はお付き合いされてるとか?」 「えっ、いいえ、ないない。ないです」  慌てて首を振って否定する。 「黎とは、なんだかんだお互い独り身なのもあってたまにご飯とか作りに行ったりしていて……」  何かをごまかすためにわたしは笑った。 「えー、先輩、円さんの手料理食ってんですか!」 「わざわざ作りに行くほどの腕前でもないんですけど……。食生活とか心配で」 「それはまぁ、確かに。ほぼカップ麺かコンビニですからねー。それは僕も同じくですけど!」 「失礼ですけど進藤さんはお付き合いされてる方は? 彼女さん作ってくれたりとか?」 「それこそないですよー。二四時間三六五日常時彼女募集中です。いいなあ、身体心配してご飯作ってくれる幼馴染なんて最高じゃないっすか!」 「黎に彼女ができたら、こういうのはやめようと思ってるんですけど」 「あー、その、実はですね」 「はい?」 「先日、先輩が課長の命令でお見合いをなさいまして」  進藤さんが言った。無神経なふりでもなく、わたしに言いにくそうにするでもなく。 「そう、なんですか……。あ、もしかして今お見舞いに来られてる方って」 「ええ、そのお相手の方で」  わたしは少しだけ動揺する。今この時に、とても予想していなかったことだった。  黎に言われてなのか自ら気を利かせてのことなのか、わたしが病室に行かないように下で待っていてくれたということか。 「うまく行きそうなんですか?」 「先輩次第ってとこじゃないですかねー。お相手の方、課長の娘さんなんですけど、手術のときも課長に言われて呼びつけられて付き添って下さってたみたいで。事件処理でこっちもバタバタしてて先輩のことなんて放ったらかしだったんですよ」  そして進藤さんが、今後こういうことがあった場合には連絡したいからと言うのでわたしは連絡先を交換した。  結局その日、黎を見舞うために顔を出すことはしなかった。
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