5.絶望が絶望でなくなるとき

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「おう、昨日は悪かったな」  これからどうしようかと考える前に、黎からメッセージが来て、わたしはまた次の日も病院に向かった。  『来て欲しい』とあったから。 「昨日は進藤さんとお茶して面白かったよ」 「何話して面白いんだよ」 「黎のハナシー」  わざとらしい含み笑いをすると、「俺のグチだろ、どーせ」とふてくされた顔で起きていた姿勢からベッドに背を倒した。 「俺のパイセン、スゲー自慢だって」 「はいはい」  黎は適当にそう返事して、 「おい、なんか持ってきてくれた?」 「あ、うん。唐揚げとおひたし」  実は病院の食事が足りないと黎が言っていたので、昨日も差し入れのお惣菜を持ってきていた。  けれど、会わずに帰ったので、進藤にそれを言付けたのだった。 「昨日のは進藤が半分食っちまったんだよ」  不要なら申し訳ないけれど処分してくれとめんどくさいことも頼んだんだけど。 「そうなの、よかった。進藤さん、家庭料理に飢えてるって言ってた」 「飢えさせときゃいーよ」  がつがつと冷えた唐揚げを食べる黎にたずねる。 「着替えとか、足りないものとかない?」 「今んとこ、いけてる。進藤に持ってきてもらってるんだ。職場に、そこで暮らせるくらいいろいろ置いてあるからさ、こういうとき便利だな。まー、もしどうしてもウチのもんいるときは頼むわ。あ、合鍵は例のトコな」  わたしは頷きもせず、しばらく黙ってから、たずねた。  強がりではなく、とても心は穏やかだった。 「お見合いしたんだって?」 「あー、上官命令。パワハラだよ、パワハラ」 「うまく行きそうなの?」 「行くわけないじゃん」 「課長のお嬢様なんでしょ? お金とコネと権力はあって困るものでなし」 「出世欲が俺にあると思うか? それに、俺が結婚考えてないのは彼女も知ってるし」 「それ、なんか不誠実なんだけど」 「だからー、見合いはもう断ってるんだって。たまたま、骨折っていうイレギュラーな事態のせいでまた顔合わせる機会ができただけで」 「まあ、わたしは安心した」 「なにが?」 「黎が野垂れ死んだり、孤独死することはなくなるかなって」
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