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「マジで誰かいい男見つけて結婚しろ、マジで」
「マジでって二回言った」と笑って突っ込んだら、「マジで思ってるからだ」と真面目な顔で叱られた。そして、また視線をそらした。ちゃぶ台の真ん中あたりをじっと見つめている。
「俺も大学のときの友達なら紹介できるし、結婚相談所に入会するなら入会金出してやるから」
「なに親みたいなこと言ってんの? なんなの、急に……」
「お前に甘えすぎだ、俺」
「それはダメなことなの?」
「部屋はいつもきれいだし、メシも美味い、一人で暮らしてるよりずっと楽しいよ。遅くなっても帰ろう、早く帰りたいから仕事して終わらせようって思うよ」
「……ダメな、ことなの?」
正直、拒絶されるなんて思ってもみなかったから激しく動揺する。
わたし達の中途半端な関係にもやもやしてくさくさしてる時には、いっそ拒絶して突き放してくれればいいのにと黎を憎く思うこともあったけど、実際言われてみると思いのほか絶望的なことだった。
「結婚ってこんなかなっていい夢見させてもらったよ。でもそんな俺の結婚プレイに付き合わせてる場合じゃないだろ。そろそろ本気で探さないと取り返しつかなくなる」
「何度も言うけどご縁があれば結婚するかもってだけで、なにがなんでも結婚したいって気はないんだってば」
「でも今のこの状況はただの俺の都合だし」
「いいよ、それはそれで。とりあえず今はお互い利害一致してウィンウィンならそれでいいじゃん」
「だめだ」
「なんで」
わたしは、すっかり縋る女になり下がってたぶん半分泣いていた。
情けなく、みっともなく、対面にいた黎の横にすり寄って、「なんで……」腕に触れた瞬間。
「……抱きたくなる」
黎は膝の上で拳を強く握っていた。
「お前がいると、やっぱり、どうしても」
衝動に耐えているのだとわかった。
わかったから、わたしは転じた。攻めに。賭けに。決定的な絶望に。
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