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いつもの夜と何かが違ったとしたら、それはわたしがいつもより好戦的だったことかもしれない。
身体のバイオリズムのせいだと思うけど、その夜のわたしはそんなメンタルで、やや捨て身、やや自棄っぱちだった。後のことは考えてなかった。
「いいよ、しても」
「よくねーよ!」
ようやく黎がわたしを見た。顔が困っていたし、怒っていた。
「何がダメ? 子どもが心配ならちゃんと避妊すればいい。それでもできちゃったらそれはそれでわたしは一人で育てる」
「バカなこと言うな」
黎はあからさまな舌打ちをした。
「子どもが授かったら嬉しいに決まってるだろ」
わかってる。黎がそんな無責任じゃないってことくらい。
「形に囚われなければいいだけじゃない?」
「……は?」
葛藤にか議論にか、すっかり消耗した様子でうなだれていた黎は覇気のない返事と共にゆっくり顔をあげる。
「法的なこととか、最悪、好きとかの気持ちもいったん置いといて、共に生活して助け合えるなら一緒に暮らせばいい。黎が抱きたくてわたしが抱かれたいなら抱き合えばいい」
「気持ち置いといてって……そんな」
「わたしは、前からセフレでもいいって思ってた」
絶句。というのがぴったりな黎の反応を見ながら思う。
自惚れじゃなくて、黎は愛のないセックスをわたしとしない。わたしとするセックスに愛がないことはない。
そこは、ずっと信じてる。
問題はそこじゃないって信じてる。
そこが、わたしの長い幼馴染人生の拠り所、いや希望だった。
「違うよ。ヤリたいとかそこじゃないんだよ」
「わかってるよ」
「俺は……俺は怖い。殉職したり瀕死の状態とかで、円が泣いたり悲しんだり、そんな想いをさせるかもしれない場所にお前を置くことが怖い」
わかってはいたけれど、はじめて黎の口から明確に聞く結婚を厭う理由。わたしを遠ざける理由。
バカだな。
黎はバカだ。
「自惚れないで」
私は強く言った。
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