1.ゆるやかな絶望しかない未来

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 ご飯を食べ終えると、黎が洗い物をしてくれたので、わたしは部屋の掃除機をかけた。  家で調理して持参していた常備菜をめいっぱい冷蔵庫につめこんだ。  片付いた部屋で、全然オシャレじゃないちゃぶ台みたいなテーブルを囲んで、テレビを見ながらお互いにビール一本だけ空けた。  終電の時間よりもずいぶん前に、駅まで送ってくれる。 「今日はサンキュ。また頼むわ」 「おっけー。では!」  わたしが敬礼をしてきびすをかえしたとき、 「あ」  黎の声が背中にかかる。 「これ」 「なに?」 「お前もうすぐ誕生日じゃん?」  誕生日にご飯を食べに行こうとか一緒に祝おうとかはない。  でも忘れずにいてはくれる。  煌々と明るい電車の中で、私はもらった包みを開けてみた。  おしゃれな雑貨店に売っているエコバッグ。 「こんなの、黎が一人で選んでたら怖いって」  さっき黎の話に出てきた婦警さんと一緒に選んだのかもしれない。   メッセージを送る。 『ありがと、所帯じみたプレゼント』 『えっ、まじか! やっぱ主婦の人に選んでもらったからかなー?』 『実用的でヨシ』 『まぁ、よかったら使ってよ』 『うん。食材買って、これに入れて、また行くよ』 『頼みます。そんで、できればもちょっとスパン短めだと嬉しいッス』  黎にはロマンチックは期待できない。  でもこうして駆け引きのない、素直な気持ちを聞かせてくれる。  黎に結婚願望はないけど、黎と恋ならまだできるかもしれない。  人に分けてあげたいくらい幸せではないけれど、嘆かなきゃいけないくらいの不幸せではない。    やっぱり未来の展望はゆるやかな絶望のなかにある。  けれど、わたしは二週間に一度のペースで行こうと思った。
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