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「星野さんは小さい頃から優秀だったんですね」
高橋さんはなにかと私は優秀だと言う。
優秀だと褒められ続けていることがむず痒くなった口が勝手に開く。
「優秀じゃないです!赤点ばかりでしたから!」
「へぇ、意外です」と高橋さんの驚いている顔を見たら、恥ずかしい過去を暴露してしまったことに気付き、激しく穴に入りたい気持ちに陥る。
そのせいで心臓の暴走が止まってくれて、少し冷静になれた。
高橋さんは私のことを何も知らない。
それは私も。
だって今日まで高橋さんの講習を受けたのは、合わせて五回。
高橋さんの歳も、誕生日も、趣味も、何も知らない。
橋本さんて凄いな、なんてふと思った。
私はもう学生じゃない。
二十三歳、社会人二年目。
無邪気になりふり構わず異性に近付ける若さはもう無い。
五年前なら怖いもの知らずでいけたかもしれない。
高橋さんに堂々とシフトを訊いていた橋本さんみたいに。
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