私の死神、ありがとう、さようなら。

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幸子は、もしや手紙の差出人である死神の子ではないかと思いながらスピーカーのスイッチを入れた。 「どちらさまですか?」 「あなたの担当死神の坂部(さかべ) 優希(ゆうき)です。成仏のお手伝いに来ました」 どうやら幸子の思っていたとおりだったらしい。幸子は特に警戒心を抱くこともなく、ドアを開けて、少女を中へと招き入れた。 「とりあえずお茶でも」と幸子は氷の入った麦茶を少女の前に置く。すると、少女は一気飲みしグラスをテーブルに置いた。麦茶が空になったグラスには氷のみが存在し、互いにぶつかりあってカランと音を立てた。 「あなたが、わたしの死神さん?」 「はい、坂部です。宜しくお願いします」 淡白にそう答えた坂部という名の少女は、軽く頭を下げた。その拍子に明らかにサイズの合っていない藍墨茶(くろいろ)のローブが肩からずれて、白い肌をのぞかせた。 「宜しくね。えっと……優希ちゃんって呼んでもいいかな?」 「別にいいですけど……お姉さん」 「はい?」 「受け入れるの早いっすね……こちらとしては仕事がはやく進むんでいいんですが」 自称死神の見知らぬ少女を平然とした顔で自宅に招き入れてしまう時点ですでにおかしいのに、死神に名前呼びの許可を求めるという状況に優希は戸惑いを隠せずにいた。そのせいで、敬語が抜け出てしまう。 「いやぁ、現実味がないというか」 「まぁ、そうですよね」 「ところでわたしって、もうすぐ死ぬんだよね?」 「はい、だから私がここにいます」 「"もうすぐ"って具体的にいつ?」 「ちょっと待ってください」 優希はそう言うとローブの内ポケットから手帳を取り出して暫くぺらぺらと音を立てながらページをめくると、手を止めた。 「明日の夜八時です」 「早っ⁉︎ そんなすぐ⁉︎」 「はい、私も驚いてます。通常は一ヶ月前くらいに告げに行くんですが、急遽(きゅうきょ)上司から頼まれまして……」 「(ちな)みに告げるのが遅くなった理由、わかります?」 「忘れてた、と」 「そんなバカな⁉︎」 幸子はフローリングに四つ這いになって大袈裟に項垂(うなだ)れる。 「お姉さん、リアクションがわざとらしいですね……」 「辛辣(しんらつ)⁉︎」
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